「七人ミサキ?」

「七人の亡霊が一つの怪異となったものだよ。目撃者を殺して仲間に加え、そして七人ミサキのなかでもっとも古株の亡霊から成仏していく。仲間を加えて、そんで成仏するからずっと七人」


私はガチガチにかたまった視線を動かして智雅くんに向けた。それがこちらに来ているということは、それって、つまり。


「私たち、今あぶない?」

「私たちっていうか、俺は不老不死だし山田は神だから……。危ないのは葵ちゃんだけ?」

「どっ、どどどど、どうしよう!」


ま、まずい状況なんじゃないんですか、これ! 危ない状況なんじゃないんですか! 私が! そりゃ智雅くんと山田さんの心配はしてなかったよ。あの二人、存在そのものがチートなんだもん。だからって、私だけ? 嘘でしょ。
だ、打開策を……!


「ま、俺が葵ちゃんを殺させるわけがないから安心してよ」

「それは頼もしいんだけど、相手は怪異なんでしょ? 銃弾はまとまに効かないみたいだし……、智雅くんは何か考えがあるの?」

「銃弾がだめなら呪殺すればいいんだよ!」

「呪殺、できるの、智雅くん」

「やるのは葵ちゃんだよ」

「さっきの頼もしいセリフはなんだったの!?」


智雅くんは持っている学生鞄のチャックを嬉々として開けた。私は逃げるように山田さんの隣についた。山田さんは怪訝な顔付きだが、知ったことではない。智雅くんは冗談にならないいたずらっ子特有の笑みを浮かべると、鞄から手を抜いた。その手には魔除けの道具とされる鈴が握られていた。鈴は音色そのものに浄化の力があるとされているが……。


「まさか智雅くん、その鈴で七人ミサキを浄化しろー、なんて言わないよね……?」

「言うよ」

「……その鈴って確か、バザーで私が押し売りされたやつだよね」

「おー、よく覚えてるね!」

「と……智雅くん……」


それ、効果あるんですか?


「良い音ではないな。俺から離れて鳴らせよ」


山田さんはそう言う。たしかに山田さんは良い神というよりは疫病神より。守護神にはほど遠いヤマタノオロチだ。しかも首が二本に増えたことで鈴の音の効果は少し上がるのだろう。神話級の神様が鈴の音でどうにかなるとは思えないけど、まあ、本人が嫌なら離れて使うしか……。
って、あれ!? なんで私今やる気になったんだっけ。まさか智雅くんの適応能力……!? あ、危ない危ない。長年の付き合いじゃなかったらやってしまうところだった。


「でも鈴、これしかないよ。呪殺なんて云ったけどこれ浄化だし。あとは本当に呪殺道具の代用品くらいしか鞄にないかなー」

「籠城とか見なかったことにするとかはできないの?」

「例えば葵ちゃん。学校の校庭に突然テントが立てられてたらビックリするでしょ? 俺らはまさにテントを立てた側だよ。山田の結界があるんだからね。ここいる怪異は女郎蜘蛛と七人ミサキだけってわけじゃなさそうだし」

「トリップするまで籠城していようよ……」

「先手必勝! 一撃必殺!」

「え〜、本気?」

「いざとなったら山田が守ってくれるよ!」

「……頼りないなぁ」


はい、と鈴を手渡される。銀色の鈴は三センチほどの大きさ。紐がくくりつけられており、キーホルダーに使える仕様になっている。鈴の表面は簡単な装飾がなされていて、どこにでもありそうな鈴である。しかも失敗したのか、一部歪んでるし。
山田さんはシッシと私を払う。なんていうか、汚い鈴の音色を聞かせるな、といった様子だ。
私は肩を落とした。