「うわああぁぁあっ!」



なにこれなにこれなにこれなにこれなにこれ!!
どういうこと、どういう状況!? な、なんで私、空から落下してるの、なんでこんな高いところにいるの!?
……わあ、地面がこんなにも遠い。まるで空を浮いてるみたい……。
……。現実逃避しても地面はだんだん近くなってくる!! お父さんお母さんお兄ちゃん。私、花岸葵はもうだめです。まばたきした次の瞬間になぜか空に放り込まれたなんて笑えない!今日死にます。完。



「やだよおおお、死にたくないよおおおお」

「あっははははっ! 葵ちゃんってば泣いてるのー?」



私が泣き言を言っていると、斜め上から聞き慣れた笑い声がした。ああ、智雅くんだ。なんで笑っていられるの! 死んじゃうんだよ!?
私よりも斜め上の位置から落下している金髪碧眼が特徴の、将来有望な顔つきの少年は……今日も……楽しそうです。



「智雅くんなんとかしてよー! このままだと死んじゃうって! 異能者でしょー!」

「葵ちゃん、異能者って神様じゃないんだから何でもできる訳じゃないんだよ」

「何でそんなに冷静なのー!!」

「ま、俺って不死だから落ちてもぶっちゃけ死なないしね!」

「薄情ー!!」



日本人なら一瞬でも憧れる綺麗な金髪を風になびかせ智雅くんは笑う。むしろ大笑いの部類だ。私は茶色の髪をなびかせる――と、いうよりオールバックにするように逆立てていて智雅くんのようになびかせるなんて言葉が似合わない。

トリップ体質。英語で表記するなら「trip」。意味は旅とか旅行。さて、それを踏まえて「トリップ体質」とはなんでしょう。日本語で書くなら「旅行体質」。わあ、なんて素敵。しかし私のトリップ体質は素敵な旅行をする体質ではない。旅行にしては規模が大きく、危険が付き物で、意味がわからない。そんな旅行。
つまり、だ。私は異世界を、私の意思に関係なく、不本意で、旅している。ぜんぜん嬉しくない非常に迷惑な体質。この現象をどうにかコントロールできるわけもない。お父さんお母さんお兄ちゃん、今日も私は旅をしています。

私の斜め上から落下しながら悠々と笑っているのは智雅くん。私の旅先でたまたま遭遇した異能者だ。ちなみに私はトリップ体質っていうだけの普通の人間だ。智雅くんのいた世界は異能者となんでもない普通の人間が一緒に暮らす世界だった。まあ、私と智雅くんの出会いは追々。



「でも葵ちゃんってパニックしないんだね。凄いねー」

「智雅くんんんん!? 今そんな雑談は必要かな!? 命の危機だよ!」

「焦ってはいるみたいだねー。もう、仕方がないなあ。まだ地上までだいぶ距離があるけど――」

「……あれ、なんだろう?」

「え? どうしたの?」



ついさっきまで命の危機に騒いでいたことも忘れて、この世界を見渡した。辺りは緑ばかりで自然豊か。ポツポツと村があり、全体的に森というより山がそびえていた。――そこまではいい。そこまでなら「ああ、今回は食料に困らないかな」くらいしか考えない。だが、その考えを打ち砕く存在がそこにあった。
何に例えるわけでもない。それは巨大な、巨大な大蛇がこちらをじっと見ていたのだ。