「ていうかさ、葵ちゃん。別に手を繋がなくても近くにいれば俺ら一緒にトリップできるよ」


新たにトリップした先で智雅くんは私と繋がった手を持ち上げて困ったように言った。「いちいち繋ぐと大変でしょ?」と眉を下げる。


「えっ、そうなの!?」

「山田は神だし、俺は適応能力で慣れたし」

「嘘! は、はずかしい」

「手が寂しいならこのまま繋ごうか?」

「別に寂しくないよ!」

「……おいガキ共」


私が智雅くんの手を振りほどくと、彼は「あーあ」と言って笑った。相変わらず楽しそうな子である。すこし離れた所にいる山田さんは私たちにいつも通り呆れていた。


「ここはどのような建造物だ?」


山田さんは周りを見渡さしながら疑問を私たちに投げ掛けた。そしてやっと、私は自分の立っている場所をようやく理解することにした。

木造であることは一目瞭然。動く度にキィキィとなく木造の古い床。色褪せた茶色の床や壁、天井。そして目の前には見覚えのある灰色のロッカー……というか下駄箱がずらりと整列しており、後ろには窓とたくさんの貼り紙がある。あれは掲示板かな。左右には廊下がのびているが、全体的に暗くてよく見えない。どこか埃っぽい冷えた空気が私の体をくすぐった。

確かに見覚えのある構造だ。百人以上の下駄箱に、壁に掲げれれた「今年の目標:大きな声であいさつしよう!」、掲示板には「集団下校しましょう」「ろうかは走らない」などのベタな紙。

「もしかしてここ、学校? な、なんか、嫌な予感がするんだけど……」

「嫌な予感?」

「うん。こう、背筋が凍るような……」


どこか覚えのある「嫌な予感」か私の背筋を冷たい手でなぞる。ひんやりとした空気が足を舐める。気持ちが悪い。


「学校とは何だ」

「学校っていうのは、一定の場所に設けられた施設を言うんだよ。その施設の機能は、児童、生徒、学生を集めて教師が計画、継続的に学術を教育すること。ここはどうやらそういった施設、つまり学校ってとこだね。でもあちこちに虫がいるし、埃とか落ちてて汚いし、建物全体も古いみたいだし、もう機能してないんじゃないかな?」

「つまり、廃墟の学校だな」

「そ。つまり廃墟の学校だね」


廃墟……ですと……?


「なーんかお化けとか出そうだね。俺が生まれた国は『お化けは友達!』みたいなとこだったから怖くないんだけど葵ちゃんはどうかな……、ん? 葵ちゃん、どうかした?」

「顔面蒼白で不味そうだぞ」

「だから山田は一言多いって」

「一言もいっていない」

「じゃあ一文節」


待った待った待った待った! 廃墟? 学校? 薄暗い? 冷たい空気? 嫌な予感? ……そして、お化け?
まさか、この嫌な予感って!


「葵ちゃん、本当にどうかしたの?」

「と、智雅くん……、山田さん……、私、駄目かも」

「ん? 意味がわからんな。小娘、何が言いたい?」

「……幽霊……」

「え?」

「幽霊……、駄目……」


私が座り込むと、智雅くんと山田さんは少しの間、言葉を失った様だった。そして、ブッと智雅くんの吹き出した声がしたかと思えば大笑いをしだした。山田さんに至ってはため息だ。
恥ずかしくて私は顔を俯けたまま事が済むまで待つことにした。