ソファにふんぞり返りながら山田は明が出したお茶に口をつけていた。台所で朝食を作る明と度々会話をしながらベランダに気を配る。


「四代元素を知っているか?」

「っ?」


何気なく山田は真相への答えを口にする。明は肩を震わせて山田を見た。なぜそれを異世界の人物が知っているのだと言いたげに疑い深い表情をする。山田は「知っているな」と頷く。


「さすが神様。なんでも分かるんだね」

「首が一つ戻って調子が良くてな。小娘の手をただで握ったわけではないだろ」

「この力を治癒に使うのは初めてだよ。ツバサがいなかったら使えないかな」

「ツバサ、な」

「ああ、ごめん。つい……。智雅だったね」

「似ているか。本体とあの傀儡が」

「普通じゃ見分けがつかないくらい同一人物だよ」

「ほう」

「ああ。ツバサの詮索なら止めたほうがいいよ」

「……どういう意味だ?」

「絶対に殺されるから」


悲しい目をした明は力強い声だった。それは確かに警告だった。まだ智雅と旅をしてから長くない。短時間で智雅の正体を暴いたが、明の言葉の意味が分からない。
さくさくとネギを切る明はやはり悲しげな表情だった。


「……智雅までは、まだ大丈夫かな。色んな世界に智雅みたいなのがいるけど、本体のことは調べないほうがいいよ。それに、私は調べないでほしいかな」


神に警告をする明を山田は面白そうに見た。ヤマタノオロチに不老不死が危険だと。神なら警告せずとも良いと考えるのが一般的だ。なにせ、神は絶対なのだ。神ほど大きな力を持つ存在はいない。あらゆる意味で「強い」神々に心配など無用。それなのに明はヤマタノオロチへ警告したのだ。神話の神に。


「無礼な小娘だな」

「えっ?」

「なぜ不老不死の肩を持つ? この俺があの傀儡に劣ると?」

「ち、違う! そういう意味じゃなくて……。そう聞こえてしまったならごめんなさい。でも、本当に……」

「まあいいだろう。傀儡の正体を鑑みるなら、本体がどれほどの愚者なのか想像できんこともない。それに俺はあの傀儡の本体をいちいち追うほど暇ではない。あれよりも小娘のほうがよっぽど面白く見える」

「……それって、葵ちゃんのこと?」

「当然だろ」

「小娘だけじゃわかんないよ……」


明がはあ、とため息をついた。
とたんにベランダがバタバタと慌ただしくなり、ガラリと勢いよくガラス戸が引かれた。葵と智雅が飛び出てくる。そして葵がなかば叫ぶように「ト、トリップ!」と言った。


「あっれ? 明ねーちゃんと山田、何を話してたの?」

「智雅くん! そんなことよりトリップしちゃうって! さ、寒気が」


葵が大慌てで智雅の手を引っ張り、山田の袖を乱暴に掴む。山田の眉がピクリと動いて不機嫌な表情になった。


「ごめん明! 朝ごはん食べられそうにないや。せっかく用意してくれたのに」

「トリップって急だねー。ぜんぜんいいよ! 次の世界でも気を付けてね」

「うん、ありがとう!」


智雅は明へ大きく手を振り、葵は頭を下げた。相変わらず山田は偉そうにふんぞり返っている。両手を振る明に見送られ、葵たちはトリップした。
葵はまたこの世界に来るだろう、という根拠のない確信を得て。