プロローグ
 


訳も分からぬまま、そして――世界は暗転した。

事のすべてを理解したのは、腹に突き刺さった鉄棒による激痛で目を覚ました時だ。
ヂリヂリと火花の散る音が鼓動を速くする。
熱い、熱い、熱い。
とにかく熱く、苦しく、出る涙も乾いていく。
重たいまぶたを、やっとのことで開けた。

世界は――地獄だった。

焦げ臭い臭いが鼻腔を刺激する。目玉が焼けるように熱をもっていたが、それでも辺りを見渡した。状況がまったくわからない。どうして、どうして、世界はこんなにも炎に包まれているのか……。

「――ァ、アァ」

出た声はすでに乾いていた。枯渇した声は炎に消える。
とにかく、体を起こそうとした。が、腹を突き抜ける鉄棒が邪魔をする。
痛い、熱い。苦しい。
目を閉じてしまう。眠気が襲う。
その、狭い視界の端で、小さな手を見た。
血の海に沈む、妹の動かぬ手を。

眠気なんて忘れた。痛みも、熱さも、苦しさも。全部を忘れて、その小さな手に腕を伸ばす。

「あお、い」

妹の名を呼ぶ。しかし、その手は動かず。触れることもできないまま――。