移動



なんか、オレの行方を心配したラカールとチトセは、その情報をツバサから買ったんだとか。オレが死ぬことを調べたツバサはラカールとチトセにその情報を売り、そしてラカールとチトセについてきたらしい。おまけに収集家まで。
細かいことは気にしない方向で、とりあえず船に乗せてもらうことにした。


「なんで収集家が一緒にいるんだよ」

「実は俺ら、幼馴染でさ」

「なんで組織を襲撃したんだ。仲間だろ」

「……俺が狙ったのは力を持ち過ぎた異能者。組織を狙ったというより、リャクが狙いだったようなもの……」


細かいことを気にしないでいるオレとは違い、就航後、ルイトはツバサに質問を浴びせていた。ツバサは相変わらず飄々としている。その隣で収集家は溜息をつきながら船から外を見ていた。船を操作しているツバサにルイトは煮え立った腹の一物を吐き出すように重たい息を吐いている。


「ソラ」


狭い甲板から外を眺めているオレの隣にラカールがそっと座った。重苦しい彼女の雰囲気に、オレは目を合わせず遠いブルネー島を見ながら「墓参りのこと?」を切り返した。


「私とチトセは、ソラが死ぬと決めたんなら追及はしないよ。ソラの決心を邪魔したりしない。ソラはこれでいいんでしょ?」

「ああ」

「なら、私とチトセはソラの信じる道を信じてる」


多くは語らない。語る必要がない。ルイトとはまた違う色をした無言の信頼。
ありがとう、と呟くと、ラカールは豪快に「何言ってんのよ。当然でしょ。お礼なんていらないよ」を言って背中を叩いた。
甲板にルイトが出てくると、チトセも含めて四人で世間話をした。

ブルネー島の到着したのは深夜。明りもない真っ暗な島。港はもう海の中に沈んでしまい、ツバサの操作した船が停留したのは丘の中腹だった。深青事件以降、ブルネー島は順調に沈んでいる。最後にここに来たときよりも島は小さくなっていた。


「気を付けて」


船から降りたのはオレとルイトだけだ。収集家が船を固定している中、ツバサはオレたちを見送ろうと甲板に出てきた。


「ここにはマレとエマ、そしてジンもいる。ジンはどうやらマレの魔術で先回りしたみたいだね。鉢合わせになれば戦闘になるかもしれない。マレのソラを殺す意志には変わりないし、マレ以上にエマが従順にソラを殺しにかかるだろう。たとえソラが自殺を考えていようと」

「……」

「ジンのほうは説得すればなんとかなる。そもそもジンはエマに脅されているようなものだからね。まあ念のため、ジンの対策を送ってもらうように交渉したところだからあとで合流してね」

「うん?」

「えーと、天気予報だと数時間後には大雨になるから、晴れているうちに用を済ましておいで。早くしないとソラの遺体を埋める時間が無くなるよ」

「オレの遺体……ね」


ルイトの頭をガシガシと掻きまわしながらツバサは「じゃあ」とオレに短く告げた。