ジン・セラメントレ


     

『――ジンを探す?』


電話に出たアイは枯れた声で聞き返す。
千里眼のアイベルトにジンの居場所を探してもらおうと思ったのだ。彼は探し物や探索が得意分野である。ルイトでは聞くだけである上にノイズが混雑しているのは知っている。彼よりも探索としては有能なアイにジンの居場所を探してもらえないか持ちかけてみることにしたのだ。


『別に構わないが』


ついこの間、幼馴染であるシドレとワールを同時に失ったアイは今、研究部にそのまま雇われている。行く先のないアイはそのままリャク様の組織に吸収されたのだ。襲撃の時、アイが主力となって索敵していたせいか、その功のおかげでナナリー直属の部下になったそうだ。


「ありがとう」

『というか、お前らはどこに向かってるんだ。そっちは学校の方角じゃないだろ』

「用事があるからね。ルイトとラブラブランデブーしてる」

『ジン見つけたぞ』

「スルーか。ジンどこ?」

『お前らとそれほど離れた場所にはいないな。タクシーで……、ソラたちを追ってる? 誰かに電話してるみたいだ。ルイトにGPS送るからあとは確認しとけ。ルイトの耳があればなにを離しているのか分かるだろ』

「助かった」


ルイトはすでにアイから送られてきたGPSを確認してジンの声に耳を澄ましていた。太ももに吊っているガンホルスターに入れている拳銃の調子を見て、バスの外を警戒した。
やがてルイトは顔面蒼白となって聞いた会話を纏めて話してくれた。ジンの声だけではなくその電話先の声も聞こえたルイトは明確に会話を理解している。


「ジンは確かに俺たちを追っている。電話の向こうはエマだった。どうやらジンは、ソラを裏切っている」

「魔女の方に付いたってことか。……、まあ不思議じゃない。かなり驚いてるけど、可能性はあった。こんな悪人の味方なんている方がおかしい」

「俺がおかしいって言いたいのか」


ルイトとジンは幼馴染である。幼馴染の裏切りにルイトは動揺を隠しきれないようで、ずっと目を泳がせていた。
『あらら、見捨てられたわね。まあ当然よね』『ざまあないわ』『滑稽ね。面白いわ。でも笑ったらソラが可哀想かしら。ふふふ』
ラリスがうるさい。バスの通路で笑っている。クソ、と悪態ついて右目を抑えた。真っ赤な左目がラリスを睨む。


「なんで……、ジン」


うつむくルイトの背中をさすった。
駅はもうすぐだ。