生きることを願い、死を望む


    

ルイトがどれだけ絶望しているのか手に取るように解る。大切だと、救いたいと思っていたオレが死ぬと宣言したのだ。

――実際、ルイトの前では平然と「贖罪として死にたい」なんてオレは言うが、死ぬことが死ぬほど怖い。手が震えるのだ。唇はカサカサに乾燥し、喉は渇ききっている。声が裏返りそうだ。体が中心部へ向けて冷える。怖い。ああ、怖い。死ぬのが怖い。本当は生きたい。本当は死にたくない。もっと生きたい。
普通の15歳でありたい。普通なら魔術師の家系に能力者など生まれない。普通なら十歳で大災害を起こさない。普通なら人を殺さない。普通なら妖刀を握らない。普通なら呪われない。普通なら男装しない。普通なら暗殺業に就かない。普通なら。そう、普通なら。
オレは初めから何もかもが普通ではなかった。別に普通は望まない。ただ、普通ならばこんなにも生死に悩まなかった。もっと長生きができた。こんなにも苦しまなかった。

欲を言えば、生きたい。
親友と。
ルイトと。

でも、そんな本能を押し退けて理性は言うのだ。
「お前に生きる選択肢などない。死ね」
それがどれだけ事実なのか、オレは知っている。
生きたいと願うことは間違っている。過ちは償わなくてはならない。やったことの責任は取らねばなるまい。


「ごめん、ルイト。酷なことを言っているのは解ってる」


魔女が――姉ちゃんがオレを恨むのはわかる。それで呪いをかけた意味も解る。オレは罪を償うどころか罪を重ねたのだから地獄に落とされても文句など言えない。マレは間違っていない。

間違っているのはオレ自身だったのだ――。


「……っ」


ルイトは膝から崩れ落ちた。
左手で顔を覆い、嗚咽している。
刀を棄ててルイトに寄り、抱き寄せた。謝罪の言葉を口にしながら。


「ああ。ああ……」


ルイトはまた泣いている。涙を流さないオレの分まで涙を流している。


「ソラが本当に望んでいるのなら、俺はミソラを最期の最期まで、ずっと支えるよ」


オレの背中に手を回してルイトはオレの胸で泣く。
ルイトは優しい。それ故に、きっと苦しむ。世界で一番オレの死を望まなかった。この世で一番オレを大切に想ってくれた。それはオレが一番理解している。身に染みるほどに理解している。オレも同じくらいルイトが大切だ。
故に、だからこそ、それゆえに、ルイトには申し訳ない。
オレを信頼して、死に納得してくれたルイトには頭が上がらない。


「ごめん、ごめん、ごめん。ありがとう……」


ルイトに心から感謝している。
オレを叱ってくれて。生きろと怒鳴ってくれて。死に納得してくれて。


「ミソラが望む最期を」


涙は止まない。ルイトを抱く手に熱がこもる。体の真が熱くなる。