死


       

「シングから聞いた」


ルイトと互いに距離を取りながら刀を構えた。


「目が赤くなって、幻が見えるようになったら、もう呪いの末期だって」

「……シング、俺たちと初めて会ったときから目が赤かったじゃないか」

「シングには血の契約をしたミルミがいたからね」

「……」

「シングは結果、狂気の中にあった僅かな理性で生きていた。そして死んだ。……オレの寿命はもうほとんどない。今呪いに殺されても、一時間後に殺されてもおかしくない。目が赤くなり、刻印は一秒ごとに広がりをみせている」

「ソラ……」

「死ぬのが怖い。死にたくない。シングの後を追って無念に死ぬのは嫌だ……!!」


刀の柄を強く握る。
本音がこぼれる。


「でも」


悲痛の表情でオレを見守るルイトと違えることなく目を合わせる。


「ウノ様のように満足して逝けるなら死んでもいい」


シングは無念に死んでいった。ミルミを目の前で殺されて、血の契約が強制的に断ち切られ、呪いが沸騰する中。抑え込んでいた呪いによる精神汚染が再発し、狂う。シングは呪いを解くこともなく、死んだ。
ウノ様は満足に死んでいった。理想であった肉体を取り返すことを叶えたのだ。魂に肉体が戻れば死ぬと解っていての理想だった。ウノ様の安心した優しい笑顔は今でも脳に焼き付いて離れない。


「魔女を殺しても、どうせ呪いは解けない」


これは、そういった魔術だ。
使用者が死んでも消えることのない呪い。


「どうせオレは近いうちに死ぬ」


自分の死に際くらい理解している。わかる。


「例え呪いが解けたとしても、オレは寿命を喰われ過ぎた。どのみち長くは生きられない。オレには生きる選択肢がない。だったら、死ぬのだったら、死に方くらい選びたい。シングのように。そしてウノ様のように満足して」


ルイトも理解しているはずだ。オレの呪いがもう解けないことくらい。オレの寿命がほんのわずかしかないことくらい。もうすぐオレが死ぬことくらい。
ルイトがオレに生きてほしいと願ってくれていることは嬉しいし、痛いくらいわかる。しかし、死ぬことは避けられない。
どうしてもオレは死ななくてはならないのだ。深青事件を起こした罪を背負って。


「死ぬんだったら、ただの贖罪として死ぬんじゃなくて、罪を償って」

「……」

「正直、まだ殺人事件の罪の重さが理解できていないんだ。そりゃ、頭では理解しているよ。感覚ではわからない。窃盗事件とどう違うのか。それがオレの最大の罪だと思う。命の重さが全く理解できないところが」

「だから、死ぬのか……?」

「こういう人間は生きていてはいけないと思うんだよね。犯罪に対する罪悪感がないんだよ。必ず罪は繰り返す。現に、オレは暗殺部に所属しているんだからいい例だね」

「そんな、簡単に死ぬなんて言うな! ソラは死んで満足するかもしれねえ。――けど!! 残された俺たちは!! どうすりゃいいんだよ……!」


ああ、また泣いた。
ルイトは涙を隠すことなくまっすぐ顔をこちらに向けている。そんな顔をしないでほしい。


「受け入れて」


オレはもう、オレの結末に納得している。