幻覚のラリス


       

「……ラリス?」


しまった――。


「ラリスってどういうことだ、ソラ」


幻覚に惑わされてしまった。


「ラリスって、たしかソラが殺したんじゃ……。どういうことだ?」

「っなんでもない」


慌てて前言を撤回しようにも、もう遅い。オレに掴みかかろうとしたルイトとの間に刀を寄せて構えた。ルイトの前だと案外ポロリと本当のことを言ってしまう。長年付き合ってきた慣れというものがこうも仇となるとは思わなかった。


「嘘をつくなよ、ソラ」

「そんなことに気を取られてたら死ぬよ」

「ソラ!」


歯を食い縛り、ルイトを薙ぐ。ルイトは至近距離からの攻撃も難なく避け、ロッカーの影に隠れた。オレは自身の腰に手を伸ばす。オレの使っている拳銃を掴むと、安全装置を外し、ルイトが隠れた。ロッカーへ射撃した。ルイトの拳銃と違って貫通性に優れたそれはロッカーを貫いていく。
視界の端に異変を感じる。ロッカーの角に影があった。ルイトのものだ。銃口をそちらに向けた。

すると、ロッカーがギィと音をたててオレの方に倒れこんでくるではないか。


「!」


慌てて回避する。倒れたロッカーの向こうからルイトがこちらを睨んでいた。人影とはちがう位置だ。あれはなんだったのだろう確認する。布……、いや、服? あれは、まさかロッカーに入っていたものか?


「避けてくれよ、ソラ」


なんて言いながらルイトは容赦なく銃撃をくれる。
コンマの世界で人影の正体を確認したオレはそれでも銃撃を避ける余裕があった。腕に銃弾が掠れたものの、大怪我もなく避けきる。回避した先にルイトが回り込み、かかと落としを仕掛けてきた。オレを銃撃でルイトの近くに誘導したのか。ルイトは末恐ろしい戦いかたをするな……。
ルイトのかかと落としをすり抜けて、回し蹴りをする。見事にルイトの背中に入った。拳銃をしまい、蹴られた勢いで倒れ混んだルイトへ刀を掲げ、降り下ろす。ルイトの服と腹を少し斬っただけで彼は避けた。ったく、ちょこまかと……!


「いって。……俺、ブルネー島や魔女のことを調べたんだ。諜報部だから設備も整っていて、すぐに色んな情報が出てきた」


避けたルイトへ追撃。しかしルイトが引き金を引く方が速かった。足、頬、肩に銃弾が通る。わざと致命傷を外しているのがよく分かるくらい手抜きの攻撃。


「ラリスって言う少女は、確かに死んでる。記録では焼死だが、本当はソラが斬ったんだろう」

「だから何」

「魔女の魔術に幻覚があるのは知ってるか?」

「……」


オレの動きが鈍る。


「ソラがさっき言ったラリスって、幻じゃないか?」


――まったく、ルイトは頭がいい。