ソラとルイトの喧嘩


      

ルイトは言葉を失い、呆然としたあと歯を食い縛った。ポロポロと涙がオレの腫れた頬に落ちて、まるでオレまで泣いているみたいだった。


「ッ……、なん、で……」


力が抜けて、胸ぐらからするりとルイトの手が離れる。オレは彼から顔を背けてそっぽを向いた。


「死ぬなよ、死ぬなよソラ……。なんで、そんなことを。生きよう、ミソラ」

「無理だ」


オレの髪へ手を伸ばしたルイトの手を弾いた。


「退いて」


冷たく放つ。涙を流しているルイトは目を伏せ、少し悩んでから首を振った。意味が分からない。いつまでオレの上に跨がってるつもりなんだコイツ。


「逃がさない。なんで死ぬ必要がある? 生きよう。生きようぜ、ソラ!」

「オレは墓参りに行くと決めた。ルイトが何を言おうと知ったことじゃない。オレの生き方も死に方もオレが決める」

「ソラのその決断に捲き込まれるのは俺たちだ!」

「それについては悪いけど」


オレはルイトの胸ぐらと腕の裾を掴み、右足の裏で太ももの付け根を押し上げてルイトを投げた。ルイトを後方へ投げてからオレは立ち上がり、さっさと出ていこうとするとルイトはドアに、自分が持っていた携帯電話を投げつけた。


「逃がさねえっつったろ」


ルイトの怒声がオレを突き刺す。「ッチ」と舌打ちを溢した。ルイトのガンホルスターに目を向ける。ルイトの手がゆっくりと拳銃に伸びていた。


「何を話しても無駄だと思うけど。オレの決心は絶対に揺るがない」

「うるせえ! やってみないと分かんねぇだろ!」

「……ま、親友のよしみで聞くだけ聞いてあげるよ。オレを止められたらね」

「は?」

「口先だけの奴って好みじゃないんだよね。オレを死なせたくなかったら実力を見せてみろよ」


オレは腰を低くして右手を左腰に持っていく。それだけの動作で、回数制限間際のあるチトセの残していった召喚術が発動する。召喚陣か見えたと思ったら、その中から刀が出てくる。その柄を掴んだ。鞘に納められた刀が姿をあらわす。
ルイトは驚いた表情だ。当然だ。こんなことになるとは思わなかっただろう。


「お、落ち着けよ。ソラ……!」

「早く武器を取らないと死ぬよ。オレはルイトを殺してでも死ぬ」

「なに言ってんだ馬鹿」

「ほら、オレって誰を殺しても……何とも、思わないから、さ」

「……っ」

「ルイトもオレを殺す気で来ないと死ぬかもね」


鞘を抜いた。床を蹴る。ルイトの懐に潜り込む寸前でルイトは回避をした。プツリとヘッドフォンのコードを切った感覚だけがこの手に残る。


「冗談だろ?」

「殺すぞ」


ルイトはキレたヘッドフォンのコードを繋がっていた音楽プレイヤーに巻く。ルイトのヘッドフォンは異能の制御だけに使われていない。あれは異能の訓練のためにも使われている。あの音楽プレイヤーから流れるのはルイトの好きな音楽ではなく、駅のホームの雑音だ。様々な音が入り乱れるそれを聞いてなお、オレと難なく会話をこなす。それどころか雑音一つ一つも鮮明に聴いているのだ。分析に特化させている異能であるが、ルイト自身の戦闘能力はオレと同等だ。


「どうなっても知らないぞ、ソラ!」


戦闘において、オレより劣っている部分は、ただ経験のみ。オレはルイトが武器を構える前に先制の一手を繰り出した。