魔術師




人形が喋って、しかも魔術を使う……だって?
そんなふざけたこと、見たこともない。ただの人形ではないことなど、それは一目みれば分かる。厄介だ。シャラ自体に魔術の才能があるわけでもなく、技術があるわけではないのだが、あの人形はどうだろうか。シャラと同じように最下級魔術か下級魔術しか使えないっていうなら少しは楽できそうなんだけど……。

そっと、二丁拳銃を両手にかまえた。片方にはまだ消音器をつけていない。



『おい、能力者はどこだ!?』

『シャラ、木に聞いてみればいいじゃない。あなたは土属性だからきっとできるわ』

「い、いやあ、土属性だけど、ほら、それって上級魔術じゃん……。てか、自然物とコミュニケーションをとるの魔術は中級魔術以上といいますか……ゴニョゴニョ」

『シャラは最下級、下級魔術しか発動できないからなあ! 使えねえ!』

「あ、あなただって私と一緒じゃん!」

『うるせえ!』



あいつら、戦う気あんのかな。言い争いしてるばっかじゃん。
消音器をつけていない方の拳銃でシャラの人形を狙う。鋭い銃声にシャラたちは静かになった。濃い霧に紛れて木の上を移動し、別の場所からまた撃つ。それを繰り返すと、シャラたちはオレがどこにいるのかわからなくなったようで、混乱していた。
濃い霧のせいで視界が遮られている彼らにオレの姿は見えない。

やがて、ひとつの弾がシャラの足をかすって、極少量の血が垂れた。



『シャラ、壁よ!』

「うん。『ルーオ』!」



シャラが地面から壁を作り出し、自分の身を守ろうとした。が、オレすでに木から降りている。

壁がシャラとオレを塞ぐ前に、オレは彼女を殴り飛ばした。突如霧のなかから走り込みで現れたオレにシャラは目を丸くしたが、すぐに飛ばされてしまう。
オレは飛ばされて地面で噎せているシャラに連続射撃をする。シャラの人形が急いで『アップ』と叫んで再び1枚の盾が一時的に現れた。
オレは舌打ちを残して再び霧のなかに身を潜める。



『暗殺者ってーのはちょこまかと面倒臭え! おい、シャラはあれをやれ!』

『時間稼ぎは私たちがするわ!』

「わかった! お願いね!」



一人と二つの会話がなされ、シャラは長い詠唱を始めた。これは最下級魔術でも、下級魔術でもない。まさか中級魔術?
しかしシャラは中級魔術なんて扱えないはず……。

そう思っている間にも、木々は不可思議に揺れはじめた。風もないのに。