SSS


       

テーブルに注文したすべての商品が並ぶ。細身のレヴィが吸い込むようにそれらを食している間、エマはその様を眺めていた。


「これからどうするの? ソラなら放っておいても死にそうだけど」

「私はこのままソラを呪い殺すわ。いままで通りよ。いままで通り、ブルネー島が沈まないように魔術壁をつくるわ」

「一人で? ブルネー島の気候やらから守る魔術壁、あれは島民がいたからこそ展開できていたんでしょ?」

「……ええ。でも、このままブルネー島が沈むのを黙って見ていられないわ」

「へぇ。苦労な道を選ぶね。じゃあソラを襲撃するつもりはないのか」

「そうね。あの子の寿命は既に死んでいるも同然よ。気にかける必要はないわ。あとは時間がソラを殺す」

「そ」


上着のポケットへ手を伸ばしていたツバサは、マレの今後を聞くとその手を止めた。マレはため息を吐いたあと、止まっていた手を再び動かしてパフェを食べきる。


「あなたは今後どうするのよ。ていうか、なんで組織を裏切ったわけ? あろうことかボスが組織を裏切るなんて」

「もともとあれは力を持ちすぎた異能者を殺すために合併させたような組織だし。裏切るなんていうよりは初めからこうするつもりだったから。……俺を信じてついてきてくれた子たちには申し訳ない話なんだけどさ」

「でも、あそこの天才魔術師は殺せてないみたいじゃない。失敗したの?」

「別にボスのあの腐れ野郎を殺すなんていう直球的な目的じゃない。エテールやリカ、サクラを含めたボス補佐の無力化のほうを重視してたからね。本当は」

「……彼らを殺したの?」

「死んだのはエテールのみ。エテールの魔術具と異能は厄介だったからね。ナナリーはもう戦線復帰は期待しないほうがいい。ナナリーは死んでもらう予定だったんだけど生き残ったみたい。うちのリカとサクラはこのあと組織を脱退するはず。ナイトもそろそら潮時かな」


ティーカップの淵を指先でなぞりながらツバサは片方の手で指を折りながら数える。青と紫が混在した目はただ淡々としていた。


「逃亡したシャトナとレオも、もう戻ってくることはないだろうし。レヴィが何を吹き込んだのか知らないけど」

「むぐ。俺は生きろって言っただけだ」

「ま、彼らには別の生き方があるんだと、刺激になったみたいだからいいんじゃない?」

「……まるであの場にいたかのような言いぐさだな」

「あはは、そう聞こえた? ほら、俺って諜報部だったから」

「いや意味わかんねえよ、繋がらねえよ」


レヴィの食べっぷりを眺めながらなんとなくマレとツバサの話に耳を傾けていたエマは「ん?」と片眉を下げた。浮かび上がった疑問はすぐ口にする。


「なんで力を持ちすぎた異能者を殺す必要があんの?」

「エマ、どうしたの?」

「だって、別に力を持ちすぎた異能者がこの不死を殺しに行くわけでもないのに。彼らを殺す必要がないじゃないですか」


ツバサの行動原理が理解できないとエマは首を傾げた。意味がわからない。
ただ強い異能者は存在するだけで死に値するなど聞いたことがないし、そんなことは誰にも許されていない。そもそも、力を持っただけで殺されるのならば不老不死のツバサだってそうだ。
力を持ちすぎただけのことが理由で殺すのだろうか。


「世界はたくさんの歯車で出来ている」


ツバサは目を伏せた。レヴィはわざとツバサから視線をずらす。


「大きいものも小さいものもある。ちょうどよく並ぶ歯車のなかに、錆び付いて邪魔な歯車があるんだよ。早く取り替えたいのにいつまで経っても朽ちてはくれない。または、回りすぎてボロボロの歯になった歯車とか」

「……世界? あんた、神になったつもり?」

「神なんか糞だ。そんなものにはなりたくない、ヘドが出る。ただ、俺が世界を気にするのはただ存続のため。誰だって何かを守っている。家であれ家族であれ命であれ。俺はそれが世界ってだけの話だよ。長生きすると世界を気に入ってしまうのが厄介だ」


エマは腕を組んでツバサを理解してみようと努力したが無駄に終わった。世界なんて気にしたことがない。ツバサの話を理解できないままエマは「な、なるほど」と理解したフリをしてみせた。