SSS


       

リャクは、転移寸前に魔術を発動させた。それは建物を崩壊させるもの。
ちょうどマレとエマが建物から脱したときだった。
建物内にいる生存者は、襲撃を仕掛けたツバサとレヴィのみである。


「あっ、やば」

「ふざけんな!」


合流を果たした二人は建物のあげる悲鳴にそれぞれ一言そえた。いつまで待っても来ないティアを待っているレヴィは崩壊の音を聞いても動こうとしない。ツバサは彼の背を押した。


「? ツバサ、ティアが……」

「ティアならサクラに任せたよ。俺はここに残っても死んだりしないけどレヴィは死ぬでしょ。さっさと出るよ」

「サクラ……って、お前の部下か。え? どういうことだ? だって敵なんじゃ」


レヴィがなにやら言っているが、ツバサは聞く耳を持たない。ティアが死んだことを告げようとしたそのとき、床が崩れ、壁が音をたてて歪んだ。
ツバサは考えるまでもなく空間転移をして建物の外へ避難した。


「はっ!?」

「……おや」


偶然、避難した先に魔女とエマがいて四人は鉢合わせた。
エマは血の入った小瓶をもって魔女を守るように立ちふさがり、レヴィの背を押したままの格好で転移したツバサは驚いた顔を見せたもののすぐにいつも通りの笑顔を浮かべた。


「お疲れさま。ミントが世話になったね」


目の前にマレがいると分かるとツバサは第一声にそれを言った。エマが鋭い目付きでツバサを睨んでいる。 レヴィは「お前、かなり嫌われてるぞ」とツバサに軽口を叩いた。
朝陽が照らし出す早朝の街はあまりにも静かで、ツバサらの声だけが響き渡っていた。


「ミントのみならずシドレとワールも殺したみたいだけど」


ツバサの笑顔は消える。その冷たい声と殺気が静かに渦巻く瞳に、エマが冷や汗を流した。マレはそんなツバサ前に、負けじと返事をした。


「あら。組織を裏切ったあなたが、今更彼女らを仲間呼ばわり? 嫌ね、見苦しいわ」

「裏切ったからといって、そこで彼らとの関係が区切られるわけではないよ。マレに寝返ったミントだって、ずっと俺を信じてくれていたシドレとワールだって、今でも俺の大切な子たちだよ」

「なら裏切ったりしなければいいのに。面倒な人」

「裏切ったことに関する意味はマレに言ったところでしょうがない。それに、敵なのに大切な人といえばマレだっているでしょうが。ソラとか」

「……」

「敵だから嫌いな奴とは限らないことは十分しっているんじゃないかな?」


挑発するように首を傾げるツバサをマレは睨み上げた。居心地の悪いなか、レヴィが苦笑いを浮かべながら「まあまあ」と間に入った。マレとエマの冷めた目線を心苦しく思いながらレヴィは喧嘩口調を止めるように言う。


「お互い落ち着こう。取り合えず居酒屋へ行こう」

「レヴィ、意味わかんない」

「今から? 私たちと?」

「罠かもしれません、マレ」


早朝からやっている居酒屋などあるのか、だとか、なぜこの面子で居酒屋なのだ、だとか、仲裁に入るときに言う言葉か、だとか言いたいことはあったが、レヴィはすでにエマの腕を引いて歩き出していた。いわば人質だ。エマは小瓶を割ろうと腕を掲げている。
数歩先を進みだす彼らを見ながらツバサはため息をついた。


「なんか、ごめん。レヴィが」

「いいのよ」

「まあ、別に俺らに争う理由なんてないし。シドレとワールのことは許すつもりはないけど」

「そうね。私の敵はソラだもの。彼らにやられたミントとハリーのことは私も許さないけどね」


こうして、珍しい四人で居酒屋へ行くことになった。