SSS


       

外に出て、日差しが眩しくて目を細くした。それが夜明けを告げる光だと気が付くには、数秒を要する。
時刻は午前6時過ぎ。
魔女――クラウンという偽名を持つマレ・レランスは、いましがた出てきた建物を見上げる。


「三人でハリーを助けに来たのに、二人だけになっちゃったわね……」


マレは悔しげな表情を浮かべると拳を強く握った。
ミントと共に拷問されているハリーを助けに来たはずだった。しかし、実際は救うことなどまったく出来ず、むしろ死者を出してしまった。邪魔をしてきたシドレとワールはマレが殺したようなものだったが、マレはもっと早くに殺せなかったのかと後悔する。


「ミントとハリーの分まで、私たちが頑張ってソラを殺せれば、きっと二人も浮かばれます」

「そうね、エマ。後悔ばかりしていては先に進めないわ。次のことを考えましょう」

「……でも、無理はしないでくださいね」

「ええ、大丈夫よ。分かってるわ」


マレは足を進める。エマが隣に続く。
このあと二人は少し休んでからブルネー島に向かう予定である。


「シングは死んだ。あとはソラだけ……。しかもソラなんて死にかけてる。もうすぐで目的は達成できるわけなんですけども……、クラウン、いや、マレはソラを殺せますか?」

「え?」


エマの思いがけない問い掛けに、マレは顔を強張らせた。どういう意図があっての質問なのか分からず、目付きの悪いエマと目を合わせる。


「どういうこと?」


マレの口から出た返しはそれだ。エマは指の先を使って血で少し遊びながら目を伏せた。


「ソラって、ミソラですよ。ミソラ・レランス。妹じゃないですか。……マレは、優しいから。もしかしたら殺せないんじゃないかって」

「……」


マレは深青事件が起きてからこの五年間、ソラに罰を与えようと必死だった。ソラも生き延びようと必死になっていたが、マレはソラに殺された罪もない人々のためを思っていた。ソラは、たしかにマレの妹だ。十年間ずっと一緒にいた。それまでのソラのことならなんでも知っている。魔術師の家系に生まれながらも能力者であった悩みや周囲のプレッシャーに押し潰されそうなソラを支えてきたのはマレを含めたラリス、そして両親だ。

ソラはマレにとって、大切な家族である。一緒にブルネー島で過ごした唯一の家族。同じくもう二人しかいないブルネー島の出身者。


「――ころすわ……」


しかし、ソラはブルネー島をその手で壊した。姉ならば、家族ならば、どんなに辛くてもソラを罰しなければならない。誰もソラを裁く人はいないのだ。やったことの責任は負わねばならない。それがどんな形であっても。
ソラを放っておくのは間違っている行為だ。それはソラにとっても、マレにとっても。
だから、マレ・レランスは覚悟を決めている。

ソラ・レランスは、必ず殺す。と。