SSS


  


ルイトは静かな声で建物の現状をツラツラと語った。


「俺たちを抜いて、現在建物内にいる生存者は六人だ。声から解析するに、魔女、エマは確実にいる。が、目的が失せたみたいだな。ここから出ていこうとしている。いや、もう出たに等しいか。あとはツバサと収集家だな。なんかよく分かんねえこと話してるみたいだ。転生がどうとか、今後がどうとか。残りの二人はリャク様とナナリーみたいだ」

「ナナリー、生きてるの。よかった……!」


ほっとナイトが胸に手を当てて肩を下ろした。ルイトが渋い表情をしている。ナナリーは五体満足というわけではないようだ。


「もうすぐリャク様がナナリーを連れて転移してくる。ナナリーを包むものを用意したほうがいいかもな。たぶん、白衣が真っ赤になってる……」


ルイトがそう言った直後だ。
べちゃ、なんて生々しい音が出入り口の近くからした。


「なぜまだここにいる、馬鹿者ども!」


リャク様が怒鳴り声と共に現れた。
ぐったりと倒れているナナリーの両肩を抱いて彼女の上半身を支えるリャク様の表情は怒りというよりも驚愕に近い。オレたちがまだこの場にいることに対して。
リャク様に支えられているナナリーは、目を薄く開け、苦しげに汗を流していた。彼女の白衣は真っ赤に染まりきり、リャク様の白衣にも赤を広げていく。


「ッ……」

「ご無事ですか、二人とも!」


レイカは言葉を失って絶句し、サレンは慌てて二人に寄ろうとしたが、リャク様に一蹴されてしまっていた。


「早く詠唱をしろ、屑! どいつもこいつも無能ばかりか……!」


まるで自分を責めるようにリャク様は舌打ちをする。
サレンは大人しく引き下がり、魔術の詠唱に取り掛かった。ナナリーは小さく、はっきりしない声で「こんな物なんて置いていってくだされば良かったのに」と呟いた。リャク様は返事をしないで、ただひとこと「『詠唱補助』」と唱えて、サレンの詠唱を手助けした。


「ソラ、大丈夫か」


ルイトがオレの腕を自分の肩に回した。ナイトではオレを支えきれないと判断したのだろう。ナイトよりもかたい体がしっかりとオレを支えてくれた。


「生きていてくれてありがとう、ソラ」

「まだ死んでられないからね」

「ああ、そうだ。もちろんだ」


ルイトは感慨深く頷く。真っ赤に負傷したナナリーをサレンとレイカの白衣が覆う。ナナリーはありがとう、と微笑んだが、どこかおかしい。白衣を届けたレイカを見ないのだ。ずっと、天井を一点見ているだけだ。


「ナナリー、まさか見えてないの?」

「耳も聞こえていないぞ。封術でなんとか使ってるみたいだ」


サレンの魔術が完成するまで、オレはルイトと今回の襲撃について話した。
どうやらエテールは死んだらしい。
諜報部の柱であったシドレとワールも死んだらしい。
死神のティアも死んだらしい。
ミントは生きていて、裏切り者だったらしい。
弟のハリーと共にミントも死んだらしい。
他にも、収集家による襲撃は多大なもので、元カノン様の部下、諜報部、研究部共に深手を負い、死者がでたそうだ。

たった数人の襲撃に対してこの様だ。
たしかに相手は悪い。
死属性を会得した魔女、異能者を震わす収集家、永久を生きる不老不死。
不老不死のツバサにいたっては組織の内部をよく知っている。相手が悪かった。

今後、組織はどうなるのだろう。多大なる犠牲をうみ、今後も続けられるのだろうか。
解散してしまうのではないだろうか。

そうなったとき、オレは組織のサポートなくして魔女を殺せるのだろうか。