SSS


  


《全員へ通達する。物資の移送が完了した。只今から各員の移送を開始する。戦闘行為を行っているものはただちに停止しなさい。この建物は破壊する。死にたくなければ七階に来い。繰り返し、通達する――》


リカの音属性の魔術による伝達が頭のなかに響き渡る。うるさい知るか。魔女を殺すことが先だ。
目の前で血をだらだらと流している魔女を睨み、刀の持ち方を変えて、突こうとした。


《止まりなさい。止まって、七階まで撤退しなさい》


リカの魔術に介入する、ナイトの声。
ピタリとオレの動きが止まった。

魔女はその隙に離れ、治癒魔術を唱えている。
ナイトの一定した声にオレは肩を落とした。ピタリと止むオレに魔女が不振がった。


「……帰る」


オレは吐き気を起こしながら答えた。魔女が「え?」と聞き返す。ラリスも「あらら。従順に躾られたのね」と笑う。
魔女の驚いた顔というものは滑稽で面白いのだが、上からの指令には逆らえない。オレは左腕を抑えながらも先に魔女へ背中を向けた。敵に背中をみせるなんて、よっぽどのことだと魔女はオレを呼び止めようとしたのだが、オレはその声をすべて無視する。そして、いまだに進行を続ける呪いに意識を移した。
きっと刻印が広がったのだろう。左目の熱さは異常である。はやく、七階まで降りよう。早く、身を休めたい。


「ソラ」


そうオレを冷静沈着な声で呼び止めることにした魔女。魔女はオレが返事をしなくても話を続けた。


「あなたが私を本気で殺したいのは知っていたけど、自分の命を犠牲にしてまでだったなんて知らなかったわ。……私も、自分の命を犠牲にして貴方に贖罪を与えたい。私たちの覚悟は同じね」

「……」

「ブルネー島で待ってるわ」


オレは振り帰る。そこにはいつのまにやら合流したエマがいて、魔女がオレに襲い掛かろうとするエマを取り抑えていた。


「ブルネー島で殺してやるよ。ラリスと同じく」


オレはそう返事した。幻のラリスの気配が消えた。

そのあと、魔女とエマが先に姿を眩まし、その場からいなくなった。オレは一人、重たい足取りで七階へ向かう。
破裂しそうなほど新造が騒ぎ立て、左半身がこれまでにないほど熱い。火傷なんてものじゃない。左半身の感覚はほとんど麻痺していた。それでも歩くことができるのは、オレが特化型能力者であるからだろう。


「あっ、ソラ!」


そんなオレをみつけたレイカはすぐにオレのもとへ寄った。あれ。オレ、レイカを逃がしたはずなんだけどな。なんでレイカがいるわけ……。しかもこんなタイミングで。


「もうすぐルイトとジンも来るから」


……なんで。
ルイトって、八階で仕事してるんじゃないの? ジンはわかるけど。状況がわからん。
レイカはオレの重たい体を支え、七階へゆっくり向かう。本当に、その最中にルイトと負傷したジンの二人と合流したから驚きだ。