SSS
シャトナとレオの生い立ちというのは、実に汚いものだ。 文字通り、生きるためなら何でもしてきたのだ。金を稼ぐのに一番手っ取り早いのは風俗で働くことだった。幼いシャトナとレオを好んで指定するマニアックな客の指示もあり、なんとか生き延びてきた。
二人の両親は商人だった。それはもう、汚い商人だ。金のために客をぼったくる。客が一般人なのであれば当然。マフィアでも政府の者でもなんでもぼったくる。怒りを買って、とうとう殺された。そんな末路だった。そんな両親のもとで生きていたせいか、シャトナとレオは「金のために何でもする」ということを学んだのだ。だから風俗へ手を出すときも、それがどれだけ非常識であるのか知らなかった。
「……世の中は醜く、汚い。私たちは泥の中にある土。汚い一部。だから幸福は求めない」
「だって、土は空を飛べない。泥の中で僅かで小さな幸せを楽しむことにする」
シャトナとレオの価値観は一致していた。だからこそ、今日まで結託して生き延びてきたのだ。人形の手に差し伸べられるまでは泥水をすすってきた。 生きるためなら手段は問わない。
無謀な敵を目の前にして正面から戦うのは初めてのことだった。いままでは暗殺するか、諦めていたのだが。今回は違った。生きる道を示してくれたウノが死んでしまった。それがシャトナとレオには多大な衝撃であり、生きる意味の消失だ。エテールが死んだことににより、二人はまさに、死のうとしていた。
レヴィは、収集家である。つまりコレクターだ。対象は異能。興味のある異能と、そうでない異能に対する接し方はまるで同一人物たは思えない。収集対象の異能には化け物のように襲いかかるのに対し、すでに収集済みの異能には人として優しく接する。 シャトナとレオに対してレヴィの接し方は明らかに後者であった。
生き延びられるチャンスであるのに、死を望んだのは二人だ。
「なんで死ぬことを選ぶんだか」
レヴィは分からないと首を振った。
シャトナとレオは、大怪我を負っていた。体を強打したせいで、骨が幾重にも折れ、内臓が損傷している。口から血を吐いたし、胃液も吐いた。呼吸をすることすら息苦しく、痛い。 瀕死ではあったが、シャトナとレオは生きている。
「なんで、殺さないの」
シャトナは床に転がったままレヴィを見上げる。レオもシャトナと同じく疑いの色をした目をしてレヴィを見ていた。
「なんでって……。俺がお前らを殺す理由がそもそもないだろ」
「ふざけるなよ。侵入者のくせに」
「これは最善の策だ」
「……はあ?」
「もし、俺とツバサ、ティアが襲撃しなかったら、この組織は恐らく内部分裂していただろう。ウノとカノンがいい例だ。もともと爆弾を抱えた者同士が仲良く出来るわけがない」
「……」
「俺はこれでも平和主義者なんだぞ」
「だから……殺さないのか。俺たちを」
「いや。単にお前らの異能にまったく興味がないだけだ。その怪我、放っておけば死ぬんじゃないか?」
レヴィはそう言うと、ため息を吐いた。眉間にシワを作ったままシャトナとレオに背を向ける。もうレヴィはシャトナとレオの相手をしないと言っているようなものだ。
「死にたければここにずっといればいい。どうせ天属性がこの建物を破壊するだろう。こんな犯罪組織をカラにはできないからな。建物と一緒に死ぬこともできるぞ。ただ、俺個人としてはお前らに死なないでほしい」
「……はあ」
「そんなに若いのに。人生を諦めるにはもったいないだろ。この先か地獄とは限らないんだ。いつ、どんなときに転機が来るなんて、普通は予測不可能だからな」
「あなたなんかが、よく冷酷無比な収集家でいられるわね。そもそも収集家こそ若いじゃない」
「俺、ツバサより年上だぞ」
「……えっ?」
そのまま、レヴィはシャトナとレオを置いて立ち去ってしまった。 生きることを望まれた上で生死を委ねられた。 生きることに希望をもてないシャトナとレオに、人生は何があるか分からないと言ったレヴィ。
シャトナとレオは静かに目を合わせた。二人は生きるのか死ぬのか、 もう結論を出していた。
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