リャク対ツバサ


  

リャク・ウィリディアスとツバサの攻防は続く。

ツバサの電撃をリャクは防ぐ。いや、相殺した。おなじ電撃を発生させて相殺してしまったのだ。大きな音をたてて相殺された電撃は花火のようにはじく。
リャクの手には古めかしい拳銃が握られていた。
ツバサの手には蛇となったはずの杖があった。
二人が同時に攻撃を仕掛ける。

ツバサによって裂かれた肉の間から流れる血を用いて、リャクは簡略的な幾何学模様を銃に描いた。たった三画の幾何学模様を刻まれたそれは銃の装填などしなくても四大属性――火、水、風、地――の特殊な銃弾が撃ち出される。
ツバサは周囲に水の塊を作り出した。シャボン玉程度の大きさのそれは何十個も存在する。


「貴様、なぜここを襲撃した」

「気になる?」

「焦らすなクソが」

「腹立つクソガキ。まあ、俺の臓物をグチャグチャにしてくれたお礼に教えてあげるよ」


破れた服からのぞくツバサの胸板に傷のあとなどなく、何事もなかったかのようだった。すでに完治した上で皮肉を言うツバサに一発撃ち込んだものの、水の塊がリャクの銃弾をのみ込んだ。


「お前が目障りだからだよ」


普段から「死ね」を冗談ではなく本気で言い合う彼らにとって、ツバサの発言はいつも通りと思えた。今さら互いが目障りだというのは承知のことであり、互いが互いをさっさと死んでくれないかなと思っているのは周知のことだ。


「俺が四つの組織を合併しよう、なんて言い出した本当の理由を教えてあげよう」

「やはり裏があったか」

「当然」


名前の無いこの組織は、ツバサの説得により設立された。それまではツバサをボスにする諜報組織、リャクをボスにする研究組織、ウノをボスにする暗殺組織、カノンをボスにする傭兵組織がそれぞれあった。交流がもともと深かった組織を合併しようと言ったのも、現在組織の本拠地として設置したビルもツバサが用意したものだった。言葉巧みにメリットを強調し、合併に成功したツバサは、たった一年ほどで組織を脱退。現在は自分が設立を推した組織を襲撃している。

……意味がわからない。

いや、もともとツバサは理解できるような者ではないのだ。しかし、動機もなにも分からず襲撃されるというのは癪にさわる。


「ウノ・ヒエンズ。異能は能力者で浮遊能力。その浮遊能力の使い方は非常に器用で、端から見れば念動力やら重力操作やら別の異能にも見える。その多彩な使い方は異能者な枠組みをこえていた。能力者をこえた能力者、なんて非常に分かりやすい」

「……」

「カノン・レザネード。異能は召喚師で死、異属性。召喚師のくせして召喚陣を描かない。召喚の契約相手は大物ばかり。世界で唯一死属性を習得した召喚師。棺の管理人、と言われる理由に納得できるほど、死体集めをする。実際、ウノも死体を奪われてる。まあ、ウノは幸い、死ぬ前に奪われたんだけど」

「……」

「リャク・ウィリディアス。異能は魔術師。属性は聖と天属性。歴史上初めて魔術師の属性を開発した。絶対的に属性の開発は不可能だと言われていたにも関わらず、その絶対を覆した。当時の年齢は14才、だなんて言われてるけど、本人はどうみてもそれより若い外見だ。属性開発後、成長が止まったことを鑑みればつい目を疑う。正真正銘の天才」

「……なにが言いたい」

「ここのボスは規格外だ。故に、『世界』はお前たちを恐れた」

「世界?」

「俺、一応リャクのことは認めてるから少しだけ教えてあげようか。このシナリオの目的を」


自然とツバサの爪が引き裂かれ、血が溢れる。これからツバサが言うのはシナリオ外の言葉である証拠だ。


「そもそも俺がこの組織の提案をしたのは全部この日のため。世界でも手で数えられるほどしかいない規格外の異能者を殺すこと。そして同時に組織の弱体化を目指してる」


リャクはひとりごとを言うように小さく「どうしようもない馬鹿だな」と呟いた。