魔術書



エテールは魔術書を片手に、辺りをくまなく見渡した。ソラのことはシャラに任せたため、自分が相手をするのは同じボス補佐のナイトだ。ウノのことはもともとカノンとの因縁なので外部ともいえるエテールが手出しすることではない。



「それにしても森かー……」



湖周辺を捜してもナイトは出てこなかった。森林の中にいるのだろう。相手は暗殺部だ。息を殺し、物陰から仕留めることを得意としている。そこ得意分野の生かせる絶好の場所である森林に招き入れられることになる。エテールは唾を飲み込んで森林を睨んだ。

魔術師でもないエテールが特殊な魔術を武器にして戦うのに必要不可欠であり、それそのものの魔術書を開いてエテールはビリリとあるページを破いた。破かれたページは発光しながら形を変え、ひとつの球体となった。その球体は、直径で三センチほどの小さなものだった。それは淡い光でエテールの周囲を回転しながらまとわりつく。同じようにエテールはあと二枚、また破いた。するとそれも同じように球体となり、合計三個の球体がエテールを守るように位置することになった。



「よし」



そう一人言を呟いてエテールは森林へ足を踏み入れた。

森林の中は極端に暗く、視界が悪い。
まとわりつくようなねっとりとした静けさがエテールに緊張を煽っていた。

静かに、エテールの背後の木が倒された。
エテールに向かって倒されたそれだが、彼は危機一髪でなんとか避けきる。土埃でさらに視界の悪いそこにまた木が傾いた。エテールは魔術書を瞬時に開いてページを破り、迫ってくる木に投げ飛ばした。
木は破かれたページがまた変形し、氷になる。エテールの手にはまた破かれたページ。そのページも氷に変形して木を寸前で抑えた。

どこかでナイトが舌打ちをする。

エテールは倒れてきた木が、根本からではなく中間から不自然に切断されている様子を目の当たりにした。内側の中心から何かが爆発したような……。

チリッ。
エテールの周囲に回転していたとある球が小さな音を出して、そして弾けた。咄嗟にページを破いて土の盾を作ったエテールは無傷でいられたが、その頬には冷や汗を流していた。



「あっぶない……!」



そう口にしたところでナイトの異能を改めて思い知った。
ナイトの異能は「粉砕能力」。ありとあらゆるものを問答無用に粉砕する異能をもつ。ただし心臓をもつ生物は粉砕することができないという例外はあるが、それでも恐るべき異能だ。ナイトの場合は威力に特価させたというよりもそのきめ細かさ、繊細さにある。
「能力者を超えた能力者」と謳われるウノの補佐であるだけあって、その繊細さは能力者のなかでも圧倒的だ。

……しかし。



「こっちは『棺の管理人』の補佐なんだから――嘗めないでよね」



エテールは五枚同時にページを破いてみせた。