SSS


  

ルイトは駆け出した。息切れを忘れるほど夢中になって。一歩一歩踏み出す足は強く床を蹴る。階段を数段飛ばしに進み、やがてレイカを見付けた。レイカはルイトへ飛び込むと、慌てた様子でルイトに助けを求めた。


「ソラとジンがっ」


レイカは切れ切れの息でルイトの両腕を掴む。言葉は詰まり、その先はない。ルイトがホルスターから拳銃を抜き取るとレイカは彼の腕から手を離した。


「まかせろレイカ。ソラもジンも俺が救って見せる」


ガチャンと安全装置を外した。レイカは落ち着きを取り戻すように深呼吸をして感慨深そうに頷いた。


「……うん、お願い」

「この先でサレンたち空属性の魔術師が転送をしてるからレイカはそこへ」

「ううん。私はここでバックアップをする。私だけ逃げられないから」


レイカは白衣の裏側に隠していた布のようなものを取り出した。革製のようなプラスチック製のような柔らかく頑丈なそれは巻物のように巻かれていた。長さは十センチ前後。紐を解いて床に広げ、続けてレイカは胸ポケットにさしていたペンをちょうど広げた布の上へ設置する。


「……すげえな。それ、まさかパソコンか?」

「う、うん。この布の部分がキーボードの役割をして、ペンがディスプレイを床に映し出すの。床じゃなくて空中でもいいんだけど……、見にくくてまだ開発中」

「機械開発班が造ったのか」

「作戦のバックアップ専用に特化したものなんだけどね。それよりルイト、バックアップは私がするよ。監視カメラのハッキング、上書きでできそう」

「ツバサが維持ってんじゃないのか?」

「リアルタイムでいつまでも監視カメラをハッキングしてるんだったら難しいかもしれないけど、たぶんそれは最初のうちだけ。きっと目眩ましみたいなものだと思うよ。だってツバサ側は少人数なんだもの。ずっと機械の前で待機しているわけじゃないと思うの」

「……なるほどな。でもレイカ、大丈夫か? 怖くないか?」

「友達を見捨てることのほうがこわいよ。無責任に放っておけないし。そ、それに……、私、こんなことでしか役に立てないから」

「十分だ、レイカ。ありがとう」

「あ、これ、通信機。……ソラとジンを、よろしく」

「バックアップを期待してる」


ルイトはレイカから受け取った通信機を服の襟に着けた。コードはなく、無線なのだろう。耳に取り付けると煩くなるため、ルイトは襟をピンで挟むようにして取り付けた。
レイカに見送られ、ルイトは誰もいない道を無我夢中になって再び走り出した。