SSS


 

濁流が押し寄せた。サクラの召喚術と召喚したウォーター・リーパーの濁流はティアのあしもとを掬う。バランスを失ったティアは膝を床に打ち付けたが、剣を床に刺して固定することでなんとか場にとどまってみせる。しかしそれは動けないことを意味していた。ウォーター・リーパーが大きな口を開けて迫ってくる。ティアは口角を持ち上げながら片手を突きだした。


「この世界から消えなさい!」


その言葉に従い、ティアが触れるとウォーター・リーパーは嘘のように姿を消してしまう。濁流が止んだ。今のうちにティアは大きな水滴を弾かせてサクラに接近した。その間わずか。瞬きをする合間に、彼女はサクラの目の前まで接近した。
降り下ろした剣はサクラがなんとか弾く。


「召喚師の召喚したものは時間制限付きで、長い時間その場にとどめることはできないんでしょう?」

「……さあ、どうだかな」

「あら。でも証拠に、さっきまでの壁はない!」

「剣はあるけど、な!」


剣と剣が弾き、火花が散る。左手でティアの剣を打ち返したあと、サクラは右手で素早く召喚陣を描く五本の指が同じ召喚陣を描く器用さ。一瞬にして描かれたそれは召喚陣ごとティアに向けられた。本能的にティアはサクラと距離を離す。五つの召喚陣からほぼ同時に氷の頑丈な銃弾が打ち出された。ティアの二の腕、腹に掠り傷をつけるものの彼女はサクラの攻撃をなんとか回避する。
身体を変な形にして捻ったティアは床に剣を刺して体勢を立て直すが、その間にサクラは再び召喚陣を描いていた。


「なるほどね。ツバサがこんなにも若い異能者を補佐にする理由がわかったわ」

「無駄口を叩くほどの余裕があるか。わかった。もっと手数を増やそう」


サクラが描いた召喚陣が壁に複数反射される。そしてそこから延びたのは無機質な鎖だった。
鎖と鎖と鎖がティアの手足、剣、腹部、首など至るところに巻き付く。そして身動きの取れないティアを確認しながらサクラは剣に陣を描く。

そして、投擲。
まっすぐ心臓へ向けて。
容赦なく。

しかしティアは笑っていた。
サクラは十本の指で氷の弾丸を放った。


「っち」


結果を見るまでもなく舌打ちを廊下に響かせたのは、サクラだった。

身動きが取れなくなり、自由を失ったのはティアだ。手足がろくに動かない。それどころか身体はどこもかしこも固定されているのだ。そのティアに剣を投擲し、弾丸を撃ち込むのはサクラ。サクラが有利に見える。

剣がティアに到達する直前、彼女の唯一自由だった手が動いたのだった。するりと鎖に触れる。サクラは次の召喚陣を描き出していた。


「こんなもの、私に通用すると思わないで!」


砂のように鎖が砕ける。投擲された剣を掴む。二本の剣で銃弾を弾く。

当たり前のようにティアは行ったのだ。良眼能力も身体上昇能力も時を止める力もないティアが。鎖は死神と呼ばれる異能を使った。しかしその他はティアの異能の関与しない純粋な戦闘力。


「まさか不老不死のツバサの補佐ともあろうサクラがこの程度なわけがないわよね」


ティアの挑発に、サクラはただ「この戦闘狂が」と愚痴をもらした。