SSS


  

サクラの「クソッ」という言葉に舌打ちがまざった。ティアは構えを緩めてサクラを心配しようとしたが、彼の暗い瞳に突かれてしまう。心配するなとその瞳が言う。


「ティア、そこを退け」

「いいえ。退かない。ツバサを追わせない」


ティアが首を横に降った。その応答はサクラにも予想できたことで、彼はその答えを聞くと宙から銀色の剣を取り出した。銀というよりそれは美しい白銀。目を奪われるほど美しい装飾が左右対称に成された剣だった。それを軽く振り回してサクラは感覚を確かめる。


「術師が剣士に剣で挑もうというの?」

「俺がそこらへんにいる召喚師だったなら、ツバサにスカウト紛いなことはされていない」

「っ」


ティアはサクラとの距離をいっきに詰めようとした。ここで先攻しなければ、この戦いのペースはサクラのものになってしまう。いくら死神という絶対的な死へ誘う異能をもっていてもティアは半人前以下の未熟者。自分のペースへ誘導しなければなからなかった。

誤算といえば、さきほどのリャクの登場と、彼とツバサのやりとりでサクラが描いた四つの召喚陣のことをうっかり忘れていたということだ。四つのうち一つは剣を召喚したものだとすれば、さて、残りの三つは何なのだろうか?


「大きな力を持つ未熟者は油断をする」


サクラは口角をつりあげた。


「――召喚術第十七法」


ティアは目に見えぬ壁に激突した。それに驚き、動揺し、何が起きたのか解らず混乱した。
何かにぶつかった。何かに先を塞がれた。それは障害物で、目に見えず、ティアはそれが何なのか分からないまま手袋を脱いで異能によってその障害物を消そうとした。


「本当にそれで消してもいいのか?」

「え?」

「俺はお前の異能を知っている。だからこそ、ただの壁を召喚すると思うか?」

「それ、は……」


実際、サクラの召還した壁は、ただ目に見えない透明なだけの壁だ。サクラの言葉は狂言。しかしティアは真に受けて、素手を壁に触れるのをためらった。
その間にもサクラは巨大で精密な召喚陣を着々と描き進める。ティアは焦り、どうしたらいいのかわからずにいた。できることは後ずさることだけ。廊下ではろくな逃げ場など無い。何が、召喚されるのか。


「“ウォーター・リーパー”」


サクラが呼び出したのは、肉食の妖精だった。
体は蛙、背から飛び魚ような翼、下半身は魚。
そんな姿をした奇妙な妖精。ウォーター・リーパー。別名をサムヒギン・ア・ドゥルと呼ぶ。「水を跳ね飛ばす」という意味だ。犬ほどの大きさの白い妖精は気持ちの悪い瞳をにゅる、と動かしてティアを視界に入れる。キー、キーと頭の痛くなる声を上げて床から跳ね、自分のいる足元に泥水を生み出した。


「気を付けろよ。人を丸飲みにする」


ティアは手袋を投げ捨てた。サクラを侮っていた。手袋などをして異能を抑えている場合ではなかったのだ。しかしその危機はティアを笑わせる。なんせ、彼女は戦うことが好きなのだから。