パペット



冷たい空気が頬を撫でた。足に違和感を感じて動かして見ると、カサカサと草の擦れる音がする。霧の向こう側を見れば、大きな湖が見えた。周囲は森林で囲まれている。日差しはどんよりとしていた。
拳銃を片手に、オレは息を殺す。



「あっちのことだからエテールとシャラは私たちをカノン様の前に出そうとするはずよ。でも私たちはカノン様の前に姿をさらすことはしない。一対一の戦闘にしましょう。ソラ、無茶はしないで」

「ご心配どうも。ウノ様とナイトも気をつけて」



オレは走り出した。

しかし、この風景は一体どういうことなのだろうか。異世界というわけではないだろうが、空間転移した様子もない。そもそも天属性とは一体……。いや、リャク様は天属性だけではなく聖属性も持っていたはずだ。だとすると、これは聖属性によるものだという可能性が否定できない。
聖属性とは治癒魔術ばかりが目立っている属性だが、この属性は精神的攻撃をする魔術もあったはずだ。リャク様くらいの魔術師ともなれば上級魔術どころか最上級魔術だって扱える。聖属性の最上級魔術には幻を見せる魔術があるのではないだろうか。つまり、幻覚。これは視覚を騙すだけではない、かなり質のいい幻覚だ。冷たい空気を感じただけに、これは最も現実に近い幻覚だ。


てきとうに選んだ木にのぼって辺りを見渡すことにした。濃い霧を透かしてオレは探索する。ここはどうやらかなり広いようだ。それこそ訓練室くらいには。
大きな湖がこの場所の半分を占めていて、あとは森林ばかりだ。湖の近くに一軒の小屋があったが、それ意外に目立つものはない。



「うしししっ。みぃーつけたー!」

「っ!」



下の方でシャラの声がした。急いで別の木に乗り移ると、ついさっきまでいた木がユラユラと揺れていた。下を確認するとパペットを前に突き出したシャラが不敵に笑っている。



『おいおい、逃げられちまったぞォ』

「わーかってるよ!」

『相変わらずシャラはのろまだけど、相手もすばしっこいわよ』

『相手は誰だっつった?』

「ソラ・ヒーレントだよ。あの黒髪の。会議室に遅刻した人!」

『エテールは彼の異能を良眼能力と言っていたわ』

「良眼能力? 能力者?」

『特化型能力者だとか言ってたぜ。ちゃんと覚えてろよチビ!』

「うぅ、ごめんね。でもあなたたちが覚えていてくれてるから私は覚えなくても大丈夫かなって」

『だからお前は馬鹿なんだよ!!』

『言い過ぎよ。シャラだって頑張ってるのよ?』

「そうだよ!」



一体シャラはなにと会話して……。もしかして、あのパペット? 両手に付いているうさぎみたいな人形とてるてる坊主みたいな人形だろうか。なんてファンタジーな……。
しかし隙だらけだ。

消音器を急いで取り付けてシャラを狙って射撃した。しかしシャラのパペットである方の片方が『アップ!』と叫んだ。すると地面が盛り上がり、彼女の盾となる。
あの人形、魔術が使えると言うことか? そんなの、聞いたことないんですけど……。