SSS




「っ」


オレはレイカを下ろし、それから目の前にある殺気を睨んだ。階段へもう間もなくだというのに、そこに魔女が現れたのだ。レイカを背中で隠し、そして右手を胴の左側、腰の近くへ持っていく。魔女に拳銃はきかない。ならば、刀で応戦するまでだ。
少しの光の後、チトセが置いていった召喚陣の中から刀を取り出す。


「……気が早いのね」


あきれた声が返ってきた。ゆっくりと進む足音が大きくなり、暗闇から魔女が姿を表した。相変わらずの灰色を模した銀髪と、筋肉のない細い肢体。あおいろの瞳から放たれるのは冷たい色。死人のような白い肌とその目は生きた心地を感じさせない。まさに「死」属性の魔術師に相応しい姿形だ。魔女――同時にそれはオレの実の姉であるマレ・レランスだった。ブルネー島の生き残り。レランス家の末裔。そして、オレが最も殺すべき存在。


「レイカ、魔女を引き留めるから走って非難を」

「……っ。わかった。気を付けて。死なないで」

「死なない。死んでたまるか」


レイカは走る。魔女はなにもせずそれを見送った。
最近うるさくなったラリスがどこかで『死ねばいいのに』と言った。いちいちそんなことに反応をしめしてはキリがないので無視だ。


「私はあなたを殺しに来たわけじゃないのよ。……目的は死んでしまった。戦う理由はないじゃない」

「ある。オレがお前を殺したい」

「あなたに私を殺せやしないわ。だってソラ、あなたを呪ったのは私なのよ? 今、ここで呪いを進行させてもいい。あなたには苦しんでから死んでもらわなくては困るのよ。ソラの罪はその命だけでは軽い。せめて苦しんでから死んでもらわないと」

「お前はオレをここで殺せないのか」

「殺せるわ。ただ、それでは予定より贖罪が軽くなってしまうというだけの話」


そういいながら魔女は微笑む。どこか影のさす笑みだった。
直後、左腕を通る血管が暴れだし、びっしりと刻まれた刻印が蠢く。とんでもない熱と激痛をまとったそれにオレは立つことができなくなった。刀を放り出し、その場にうずくまる。刻印はズルズルと体の表面を這い、やがてそれが首から顔へ到達するのがわかった。呪いが進行をしている。


「ぐ――ァ、くそッ!!」


血反吐を吐いた。内臓が痛い。脳が振動をしているようだ。毛細血管にいたるまで、血管という血管が、神経という神経が激痛に震える。心臓は太鼓のようにうるさく鳴る。死期がどんどん近くなる――!


「……そうよ、苦しめばいいのよ。私たちの平穏とすべてを壊したソラは」