SSS


 

「え? ソラあ?」


そんな声と共に、ビンの割れた音が響いた。
オレはすぐさま振り返る。エマは誰かと話しているようだ。いや、誰か、などではない。魔女に決まっている……!


『見付かったようね、ソラ。ここがあなたの墓場よ。 今宵、やっと死ぬのかしら?』


ラリスの含み笑いがオレだけに届く。フードを外した。残弾を確認。曲がり角の壁に背を預け、耳を澄ます。警戒し、奇襲ができるようについた。どうせ逃げたって魔術で捕捉されているんだから逃げ切れない。迎え撃つ。
警戒の最中にいると、肩を静かに叩かれた。そちらを向くと、レイカを下ろしたジンがいる。


「なに?」

「俺がやる。ソラはレイカを任せた」

「任せたって……」

「いつもソラばかり戦ってるからな。今回は俺がやってやるよ」

「エマのこと、わかってるね。能力の自制にいたってとても器用。あいつは手強い。気をつけて」

「おう」


オレと交替するように、ジンは壁に背中を預けた。オレはレイカを抱き上げようとして、レイカが離れていった。なんで?


「だ、大丈夫だよ」

「? レイカ、疲れるでしょ? それにぶっちゃけ足か遅いし」

「足が遅いのは事実だけど……」

「不満?」

「ソラ、私より年下だし……女の子だし……」

「……あのさあ、オレのことバカにしてんの? 年下だから、とか、女だから、とか、偏見にも程がある。つーか、女の子っていうほどオレはらしくないし、それにその言葉は嬉しくない。オレはミソラ・レランスじゃない。ソラ・ヒーレントだ」


なんかムカついたので無理矢理レイカを抱き上げた。しかも横抱きだ。お姫様だっこだ。オレのことは女扱いするな、という意味を込めて。男装時に女扱いは困る。
そのままオレは背中をジンに任せて、階段へ駆ける。もちろん無音だ。音をたてるなんていうヘマはしない。



――――――――



ルイトは魔術によってジャミングされたせいでソラたちと一切の連絡が着かなくなっていた。ただ、良聴能力で一方的に状況を理解することはできていた。ジンだけが残り、エマと応戦。ソラはレイカとともに下降している。この状況は、すべてにおいて最悪であった。
なぜなら、自らの異能を器用に制御できる能力者であるエマと、おおざっぱにしか制御のできない能力者であるジンは相性が悪い。さらに、ミントが魔女を転移させた場所はちょうどエマのいる場所よりも下。ソラとレイカが通過する地点だ。ソラは顔を合わせれば確実に応戦する。明白な事実だ。


「……っどうしたら」

「ここはいい。行け、ルイト」


そう指示したのは他でもない。アイだ。先程まで取り乱していたアイだったが、なんとか、表面だけでも冷静な振る舞いをしていた。
ルイトは面をくらって、ポカンと口を開けた。


「手遅れになる前に」

「でも、人数が足りないんじゃ……」

「もう移送は半分を越した。残りの半分くらいわけない。急げ」

「ああ……、ああ! 恩に着る! ありがとう!」

「さっさと行け」


サングラスをかけ直しながらアイは顎で出口をさした。ルイトは椅子から飛び上がり、腰に吊っていた拳銃を取り出しながら駆けた。急いで階段を昇る。