SSS


 

現在、そこは4階。大きな爆発音と共に4階の天井が破壊され、5階まで筒抜けになったばかりだ。上の方でシャトナとレオの驚いた声がする。



「俺が手加減をしているとはいえ……やるな、能力者」

「これで手加減だって……?」



収集家のレヴィが攻撃の手を止め、初めてエテールは己の具合を確認できた。
火傷と血で濡れた両腕。右手の指はあらぬ方向を向き、奇妙。左耳は抉りとられてそこには無い。左目のまぶたもどこかへ消え去った。白い骨が見えるほどだ。脚の骨は砕けており、今はむりやり魔術書を使って立たせている状態。
エテールは、まさに死の間際だった。

そのエテールを圧倒的な力でしかも手加減をしてここまで追い込んだレヴィの傷はかすり傷が少しある程度。
どうエテールが足掻いたって、レヴィには敵わない。その事実は嫌というほど明白なものだった。



「降参した方が身のためじゃないか?」

「無理だよ。僕は命をもって貴方を足止めしに来たんだ。この命が燃え尽きるまで、僕は貴方を妨害する」

「……美しい心構えだな。お前はなにを守っている? 尊敬する『棺の管理人』――カノン・レザネードは死んだんだろう?」

「そうだよ。僕が守るのはカノン様ただ一人のみ。僕がこうして足掻くのは、死ぬためだ。カノン様もそうしたからだ」

「そうか。俺はそういう、貫き続ける決意は好きだ。それが何であれ、な。敵とはいえ、応援したくなる」



レヴィは片足重心。エテールを馬鹿にしているのか、放っておいてもじきに死ぬのが分かっているからなのか、気を抜いているのか。しかしレヴィが攻撃をせずただ立っているのはエテールには好都合。密かに次の攻撃を練ることも、自己回復に努めることもできる。



「お前に対する安楽は死。死のみ。応援するから、死ね」



レヴィがそう宣言すると、エテールを中心に足下から檻が出てきた。檻にはツタが這っており、檻が完成するとツタがエテールを拘束する。怪我にその拘束が響き、エテールは顔を歪める。
エテールの反撃は速く、レヴィに向かってどこからか一斉に様々な魔術が攻撃しに行った。煙が発生し、レヴィの生存は分からないが、エテールはレヴィがまだ死んでいないことを確信する。続けて攻撃をしようとして、死んだ。

痛みも予兆も走馬灯も寒気もなにも感じなかった。即死だ。

エテールの遺体が倒れこむ寸前をレヴィがささえ、そしてゆっくりと床に寝かせる。檻とツタは消えており、ただ散乱とした光景のなかでエテールは死んだ。遺体の隣で方膝をつきながらレヴィは手元に花を生み出す。アゲラタムだ。



「痛くないようにした。黄泉の世界で再会できるといいな」



その言葉だけを残してレヴィは立ち上がり、そして吹き抜けた5階を目にすると、フッとその場から消えた。