ルール



「複雑なルールが提示されなくて良かった」



目の前に浮かぶ文字にはリャク様の言ったことと同じ言葉が記されている。それを見ながらオレは一安心した。



「制限時間はない。餓死してもこれは続行するからな。いつ始めるかだが……」



うわ、制限時間ないのか。酷いことをするな。ウノ様とカノン様の力量はほぼ互角。簡単に決着がつくとは思えない。
リャク様がふむ、と考えるそぶりを見せた。ご丁寧に目の前の文字はそれを「……」と表記している。



「ならば今でよいではないか? 準備をする時間も合わせて本日殺し合おうではないか」

「いや、ソラが帰ってきたばかりで疲れている。それでは私たちが不利ではないか」

「我らはいつでも構わないがな」



フン、と鼻をならしてカノン様は見下す。軽く挑発をしているのだろう。
ウノ様の表情は人形だからかわからない。しかしウノ様はこんな簡単な挑発に乗るような人ではない。



「ウノ様。オレは大丈夫です。準備する時間さえあれば」



軽く挙手をして言ってみればウノ様に「本当に大丈夫か?」と心配された。肯定を示すために頷く。
殺し合いは本日行われることになった。
その場は解散し、一時間後に10階に集まることになる。

10階は普段戦闘訓練室となっていて、天井の高さは建物3階分に相当する。色んな用具が置いてあるが、会議室を出る前にリャク様がナナリーへ「サレンとお前の班を一つずつ連れてこい。片付けるぞ」と指示していた。きっと何も無くなるのだろう。いや、リャク様は「オレの用意したフィールド」と言っていた。きっと空っぽになるわけではないだろう。

オレは一度自分の部屋に戻り、銃弾を補充して、後ろ側のベルトに短剣を装着する。これでいいか、と部屋を出ようとした。しかし刀も持っていこうか悩む。
腰に挿していけばきっと邪魔になる。それにオレは刀を持っていかなくても大丈夫なはずだ。



一時間後、オレたちは訓練室に集まった。中は空っぽでオレは驚き、シャラはパペットと共にはしゃいでいた。エテールに怒られて躍り狂うことを止めたもののその口は驚きを言葉にしていた。
オレたちはウノ様の近くにいる。



「リャクは私を守り、カノンへ攻撃しろというようなことを言ったがそれはしない方が賢明だ。むしろ極力カノンの前に姿を現さないほうがいいな。殺されて、その遺体を操られるのがオチだ。はっはっは、私たちは暗殺部。元は暗殺組織だ。私たちらしい戦いをしよう」

「ええ。わかりました」

「了解です」



リャク様が「始めるぞ」と声をあげた。リャク様の隣ではナナリーが正座をして、お札を浮かせて詠唱している。リャク様がナナリーの様子を確認してから魔術の詠唱を始めた。周りにどんどんと霧が現れ、次第に普通の目では視界が役にたたなくなる。

気が付けば、オレたちは湖畔に立っていた。