SSS


 

ワールの斬撃は目に見えないほど速く、そしてとてつもなく重かった。体力の低い魔女ではワールの斬撃は弱点に他ならない。



「『失活せよ』」



魔女の魔術で一瞬、ワールの片足に力が入らなくなってしまった。そのまま倒れてしまうところをなんとか転がってたちなおす。
その隙に魔術は別の呪文を唱えており、ワールに襲いかかった。



「『地の深くを這う愚者に供物を授けよう』」



影と言う影から、ただ真っ黒な、黒としか例えようのない長い腕がワールに向かって伸びる。ワールは刀と剣の二刀でその腕を切り捨て続けるが、次々と沸いて出てきた。ワールが腕を相手にしている間に、魔女は素早く更に魔術を重ねる。



「『地獄への渡舟よ。その姿を今こそ表し、彼のものを連れ去れ。彼岸の花を、黒い川を、錆びた橋を――』」

「クソッ、最上級魔術だと!? ッチィ」



切っても切っても黒い手は止まない。最上級魔術は呪文が長いが、この限りない腕がワールをいつまでも阻む。これでは詠唱の邪魔をして呪文を遮ろうとしてもできやしない。



「『――閻魔の采配よ、番人よ、死の神よ。異能の力を持つ、人を外れしヒトを裁きたまえ。願わくば――』」



ワールに嫌な汗が流れた。詠唱が終盤に差し掛かっている。
腕を切り、切り、切り、切り――。それでも途絶えないその腕を憎んだ。
このままでは死属性をもつマレ・レランスに殺されてしまう!



『シドレッ!!』

「ええ、わかってます。アイ! ワール、伏せて!」



唐突によく聞く声の通信が入った。そしてシドレがワールに手を向け、それを一気に下ろす。全ての腕を潰し、声を発せられないほどの過呼吸を与える重力を魔女にかけた。
シドレが魔女と腕に重力をかける間にミントが奇襲。そのミントの攻撃を、ワールが剣の鞘を投げて防いだ。



「よぉ、大丈夫か? シドレ」

「ワールこそ」

「んで、なんで急にアイから通信が入ったんだよ」

「勝手にやったんでしょう」

「いまごろルイトに怒鳴られてるだろうな」

「ええ。そうでしょう。私たちはアイに怒鳴られないように勝利をおさめましょう」

「ああ」



再度、シドレとワールは命をかけた戦闘のなかに飛び込んでいった。