SSS


 

シドレ、ワール、そしてここにはいないアイの三人は共通の過去をもっていた。それはシドレが男性恐怖症になる原因であった。三人の左腕に薔薇の、右腕には茨の刺青があるのも、三人がほとんどの時間を共に過ごすようになったのも、それが原因だ。「二度目」と、シドレたちが口にするのは、彼らには絶望的に組織を襲撃されたことが過去に一度あったのだ。



「はいはい、死んでくださいね」



シドレの重力操作。自分のからだの何倍もの重力がミントにかけられる。その重さでミントが吐血し、酸欠になり、目眩がする。しかしミントはすぐに袖を捲り、ペンでかかれた文字を読み上げ、空間転移をした。
集中の削がれてしまうほどの何か――例えば激痛――があれば空間転移が難しくなるミントであったが、初めから口にするのではなく、行き先をメモしておけば問題はない。ミントなど、能力者の空間転移は自分を中心に座標指定を行う。あらかじめ計算しておけばテレポートは可能になるのだ。



「良い判断です。しかし空間転移ができる程度でこの重力操作から逃げられると思わないでくださいよ」

「っく」



ボコボコと床が凹み、その破片はミントに向かって飛んでくる。重力操作をシドレは驚くほど器用に使っているのだ。重力操作能力とは、単に重力を何倍も重くかけたり軽くしたりするものではない。その向きや、重力をかける地点など、細かいところまで操作ができるのだ。



「シドレさんは、この組織が汚いことを知っているでしょ! なんでこの組織にいるんですか! ……なんで、みんな、こんな組織なんかに……」

「汚い?」

「そうですよ! 暗殺部は根っからの重罪人の集団ですし、傭兵部だってどこからかこぼれ出た殺人者ばっかり! 研究部の人権を無視した人体実験や非道のおこなう実験をしてる! 現にこの血生臭い地下があるんです! それに私の所属していた諜報部だって、犯罪は当たり前ですし、拷問や拉致など情報や依頼のためなら何にでも血を染め上げる!」

「それって汚いことですか?」

「……へ?」

「私は生まれつきこちら側にいますので、生憎、そのようなことは分かりません。ええ、あなたは正義です。間違いはありません。正義が不義を許さないのは当たり前です。対立するものです」

「っ」

「我々は不義です。巨悪、不正、不善、害悪、罪悪……。何とでも言ってください。私たちは私たちを貫きます」

「シドレさんも、私と同じ考えを持ってくれると……思ってた……」

「あなたが私たちを悪だと、汚いと罵るのは結構です。弟さんを拷問した私たちを許さないでしょう。しかし私だって、この組織を、命を掛けて守りたい。私の世界はこのちっぽけなもの。アイと、ワールがいて、ツバサさん、サクラさん、リカさんたちがいる世界。ミントさんは私の世界から消えて、世界を壊す存在になりました。私は私の世界を守り、取り戻します。もう二度と私の世界は壊させない!」

「シドレさん……」

「私は私の世界のためなら戦います。この組織が汚い? その汚さすら私の世界! その汚い世界が私に残された居場所! もう、無力な私ではありません。自分の手でこの汚い組織を世界を守ります!」