SSS


 

サクラ一人でツバサとテアの攻撃に耐えきるのは不可能だ。威勢良くソラの背中を押したものの彼に策などない。
召喚術で己を守護する力を引き出したものの、先手を出せずにいた。ツバサを守るようにテアが立ちふさがり、剣を構える。



「ツバサ、殺してもいいの?」

「それが最善だよ、テア。テアこそ、サクラを殺せるの?」

「……正直、まだ迷ってる……。でも、上を叩けば士気は下がる。できるはずよ」

「ならここは一任するよ。俺は下の階層に――」



ツバサが背中を見せ、別の階段に向けて歩きだした瞬間。ツバサを攻撃する矢が飛んできた。目に映らない速さでサクラの横を通り過ぎると、テアも反応できない間にツバサの眼前に到達した。しかし、それをツバサが頭を傾ける、という最低限の動きだけで避けてしまう。
しん、と静まり返った。テアがサクラを睨み、サクラは俺じゃないと首を振る。



「なんだ、死ななかったか。……まあ、この程度で死なれては味気無いか」



その声を聞いただけでツバサは舌打ちをした。
それだけで、十分、誰が現れたのか周知になる。



「しかし中級魔術を避けられるとは」

「あれが中級魔術? あれで俺を殺せるなんてよく思えたね」

「今は殺さない。死に限りなく近い状態で研究材料に使ってやる」



サクラの隣に姿をあらわした。汚れた白衣を着たリャクは手袋の口を引っ張りながら言う。テアが僅かに狼狽えた。



「あれはオレが相手をする。貴様は死神の相手をしろ」

「リャク様」

「文句は聞かん。持ちこたえろよ」

「……了解しました」



サクラは手を動かした。召喚陣から剣を取り出す。テアは殺気をサクラにだけ向け、姿勢を低くする。ツバサはテアの背中に「任せた」と手で触れるだけの力で叩くと杖をついて奥に行く。誘われるようにリャクはポケットに手を入れたままついていった。ブツブツと呪文を唱えながらテアの横を通り過ぎた。



「……サクラ、貴方ならわかっているでしょう? ツバサのシナリオのこと」

「ああ、知ってる。ツバサにある程度の距離で近い人なら誰でも知ってる」

「なら、これがシナリオの最悪から逃れるための最善策であることもわかるでしょう? 方法はこんな風になっちゃったけど、ツバサはあなた達を守ろうとしている! だから」

「抵抗するなと? 抵抗するさ。死を無償で受け入れるほど俺たちは優しくない」

「……っ私は」

「ティア。お前が家族であるツバサを大事に思うのもわかる。俺だって、これでもツバサを尊敬して止まない。悔しいことに今だって。これからも。だから、リャク様に掛ける。シナリオをほどいてくれないかと」

「でもあれは本体じゃなくて……偽物よ」

「俺たちにとって、その偽物がツバサだ。俺はツバサの背中を追った。あのツバサだけでも、シナリオから救いたい」

「ツバサは望んでないわ……」

「それでも、シナリオと違うことがあったっていいじゃないか。きっとこれが、俺たちにとっても分岐点になる。もともと、この組織は穴だらけだった。これ以上は続かない。ちょうどいい」



サクラは両手で大きな陣を描いた。
それが戦闘開始の合図となり、テアは重たい足を前進させる。