SSS


 


オレがちょうど19階の階段を降りきったときだ。真っ黒な廊下の奥から高密度の魔力の流れを感じ取った。ふと足を止める。これほど密度の高い魔力を惜しげもなく晒す人物は一人しかいない。



「待て、オリジナル」



リャク様だ。
彼は少し汚れている白衣を翻してこちらにやって来ると、手袋に包まれた手を差し出した。確認してからデータを渡す。彼は直ぐに呪文を唱えて転送した。



「単刀直入になるが……」

「はい」

「魔女がこの機に乗じて襲撃してきた。考えるまでもなく、目的は貴様だろう」

「は……!? 魔女が、ですか!? どこに……」

「慌てるな。待て。……今は戦うことが目的ではない。それは分かっているな?」

「……はい」



ときどきジェスチャーを交えながら――基本的に白衣のポケットに手を突っ込んでいる――話を進めていく。さすがというべきか、リャク様は淡々と冷静に語る。それにつられて騒がしかった鼓動も落ち着きを見せていた。



「お前を今からレイカのもとへ送る。そこで移送準備を手伝え」

「じゃあ魔女は……」

「……ナナリーが頑張ってくれている。オリジナルは移送準備をやれればそれでいい。いいな」

「了解しました。リャク様はどこかへ行かれるんですか?」

「死に損ないを今回こそ葬りに」

「……、ツバサですか。オレ、あいつ心臓を撃ったのに驚異的な回復力を持っていました。血を流す前に傷を完治させたんです。気を付けてください」

「なるほど、良いことをきいた。――だが」



リャク様は階段の方に進みながら声を一段と低くした。少し笑っているかのような声をもらす。



「気を付けるのはオレではない。お前たちだ。オレがどんなに魔術を使うかわからんからな」



リャク様は白衣を靡かせ、そして消えた。文字どおり消えた。そのあとにオレに魔術がかかり、瞬きをした瞬間、そこは真っ黒ではなく忙しなく動く見知ったレイカとジンがいる風景になった。どうやら一部の部屋にはリカの魔術はかけられていないようだ。
真っ先にオレに気がついたのはジンだ。銀髪の前髪をかきあげ、その目線の先にオレがたまたまいたのだ。



「うおっ!?」

「人の顔みていきなりなんなの」

「急に出てくんなよ、ビビるだろ!」

「情けない。これだからいつまでもレイカを落とせないんだよ」

「んだとゴルァ!!」

「レイカ、リャク様に手伝うよう指示された。なにかオレに出来そうなものある?」



ジンは無視。レイカが重そうな段ボールを持っていたのでそれを譲り受けながら聞いてみた。レイカはオレに驚いたあと、棚にある資料を箱に移してほしいと言う。快諾すると、レイカは急いでパソコンの電源をいれた。やることはまだまだあるようだ。

時折、拳銃に触れて魔女と姉のことを考えた。殺してやる、と。