SSS


 

「魔女だ!」



その叫び声はリャクの耳にもしっかし届いた。珍しく声を張ったリカはそのまま、更に侵入してきた敵の名を上げていく。



「魔女だけではない! エマもいる! くそっ、戦力が足りない! ……おい、裏切者も一緒に来ているぞ。ミントだ。ナナリーの封術が完成する前に突入してきたか。まずい、しかも空間転移でバラバラだ。うまく収集家の位置とずらしてるな。……魔女は17階、エマとミントは地下に出現した!」



リカは落ち着いた様子だった。

ミントが裏切者だと、初めから気づいていたのだ。『黄金の血』を潰す作戦の時、ミントは大量の出血を残したまま姿を眩ました。出血の量は多く、生きていないと判断されるほどのものだった。そのため、ミントは見つからないものの死んだと見なされていたのだ。だが、あの出血は本当にあのとき流したものか? 魔女側には流血操作能力のエマがいる。他人の血液をミントのものにすり替えるのは雑作もない。ミントの死は偽装だった。

しかし、それより前から当時ボスだったツバサをはじめ、リカ、サクラはミントが魔女側に加担していることを知っていた。ミントを泳がせていたのは魔女の動向を逆に監視するためだった。結果、まだ誰にも売っていない情報を手に入れることに成功している。

リカの口から軽々と言われた真実に、ナイトを含めてほぼ全員が静まり、驚いていた。だが、今はミントのことをリカから聞き出している場合ではない。ツバサ、テア、収集家の襲撃に加え、さらに魔女、エマ、ミントが混乱に乗じてやってきたのだ。



「ち、地下!? 地下にはいくつもの防衛機能があるというのに!」

「魔女の死属性によるものだ。最上級魔術ならナナリーの仕掛けた封術をなんとか相殺できるだろう。リャク様の魔術は入り口にしか仕掛けてなかったはずだし、カノン様の罠は拷問室をちょうど避けている。しかも運良く捕らえたハリーのすぐ近くに出現している。つまり拷問室周辺だ」

「……なんていうことなの……! 地下には誰かいないの!?」

「シドレとワールがいる。あいつらがいるのならハリーを確保しながら戦えると思うが……いや待て。まさかエマはハリーの傷を治そうとしてるかもしれん。まずい」



リカは爪を噛む。リカな問い詰めていたナイトも、落ち着きなく切羽詰まっていた。それとは対称的に落ち着いたリャクの声がかかる。



「ナナリー、封術の展開に急げ。腐れの動向はどうだ、リカ」

「ええ……。……ツバサとテアを……サクラが足止めだと!? サクラ一人でか!?」



リカは受話器の向こうへ叫んだ。相手はアイ。リカは慌てて現状を確認したあと、改めてリャクに答えた。



「ツバサはティアと共にサクラと交戦を始めたようです。ソラがデータを運んでいますが、途中で魔女に遭遇する恐れが……」

「分かった。闇属性と粉砕能力はここでオレの代わりに指示を出せ。ナナリーは任せたぞ」

「ど、どういう……?」

「オレはオリジナルを転移させたあと死に損ないを今回こそ殺してくる。ナナリーには負担をかけることになる」



ナナリーは詠唱をしていて頷くことも言葉を交わすこともできないが、リャクをしっかり見つめ返した。ナナリーは建物の中の荒れようを外にもらさないように封術を使っている。収集家の異能を防ぐための封術も使っているため、大きな封術を二つも使い、詠唱をしている今でさえ呼吸が乱れ、集中するために印を結んだ手は震え、全身が汗ばんでいた。リャクはがんばれ、と口にはしないがナナリーにはそれを理解できている。

リカとナイトは絶句した。ボスで、司令塔であるはずのリャクが前線に出るなど考えられないことなのだ。



「っしかしリャク様」

「ならば聞くが、あの腐れを誰が足止めする? 一人で足りるのか? 死神もいるのに」

「……それは……っ」

「オレは絶対に死なん。あとは任せた。転移が全て完了したら魔術でも使って伝えろ。いいな」

「――了解しました」



リャクは否定させない強い声でリカとナイトを納得させると、そのまま空気に溶け込むようにして姿を消した。