SSS


 

死ぬ。――死ぬ。
……死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ。

敵にしては、彼は、強大すぎる……。



「――」



サクラはツバサを罵倒しようとしたが、その言葉を飲み込み、口を閉ざしている。
オレとサクラが束になったって、五分も持たない。ツバサは強い。簡単に捩じ伏せられ、殺される。ここは逃げるのが一番だろう。命は大切だ。敵わない敵に挑むなど無謀すぎる。馬鹿がやることだ。
だが、指ひとつ動きやしない。ツバサはただこちらを見ているだけなのに。恐怖に震えてしまっている。



「くそっ」



全身が、本能が嫌だと拒むのを無視して拳銃に触れた。頭か心臓。即死の部位を撃てば、あのときのように消えるはず。幸い、ツバサは杖で体を支えているし、リカの魔術師で見えないはずだ。物音をたてず、殺気を抑えるなど、暗殺者なら出来て当然。静かに安全装置を外し、そして、引き金を引いた。
オレの目に狂いはない。ツバサの心臓を確かに撃ち抜いた。



「威嚇もしないでいきなり撃つなんて」



苦しげな声もない。いつも通りの悠々とした、口調だけ優しい声。
中心より少し左。鎖骨より少し下。
確かに心臓を撃った。火薬のにおいが確かに証明している。それなのにツバサは心臓を吹くこともなく、なにごともなかった様子でオレを確かに見ていた。



「……そんな」

「ソラ、何をしたんだ」

「ツバサの心臓……撃ったのに、平然としていて……血を一滴も流してない」

「いままで手加減してたってことだろ」



ギリ、とサクラは悔しげに歯ぎしりをした。オレは答えを求めるようにサクラを見、次の言葉を待つ。



「心臓を撃たれても血をもらす前に修復できるほどの再生能力」

「『黄金の血』のとき、頭を撃って消えたはずなのに」

「それこそ手加減してたんだろ。相手はあの不老不死だぞ」



不老不死が、ここまで恐ろしいとは思っても見なかった。いや、これほどの再生能力をもつ不老不死などどんな伝説にも、どの世界にも存在しないのではないか。何をしたって、『無傷』なのだから……!



「ツバサ、今のなに? 銃声?」



四人目の、声。
ここに現れる女の声など、ツバサに話しかける声の主など、一人しかいない。
死神と呼ばれるテア・ジュラーセだ。



「不老不死と死神……まずいな」



サクラは自分のポケットのなかを探ると、オレにこぶしをつきだした。手に握られているのが何なのか、用意にわかる。



「データだ。俺がコイツらを足止めする。機動力のあるソラが運べ!」

「こんな真っ暗なのになに言ってるわけ?」

「人の死を何とも思わないんだろ、ソラ。ならここは効率性を優先しろ」

「ああ、普段ならそうするよ。でも置いていく相手はボス補佐だ。置いていけるわけがない」

「なら命令だ」



オレはサクラのこぶしを力任せに掴んだ。サクラは手の力を緩め、中のデータをオレに預ける。



「任せたぞ」



サクラはオレの背中を押しながら、空いた手で召喚陣を描いていた。