SSS


 

情報は重要機密区である地下にも届いていた。
ハリーを拷問していたシドレたちはしばらく前に二人とハリーだけ取り残されていた。ハリーの拷問は中断され、今は彼を黙らすためにシドレの重力操作が、気絶しないところをギリギリに保たれたままかかっている。これも十分拷問だ。
アイたちが地下室からいなくなり、後から収集家の襲撃が伝えられた。今の状態では空間をねじ曲げる以外で脱出は不可能とされている。血生臭い地下室に、ハリーを含めシドレとワールがいた。



「迎え、来るでしょうか」

「シドレ。今は弱音を吐くな」



ワールはハリーを睨み付ける。それだけでシドレはワールの返答がわかる。つまり、迎えは来ない。最終的には来るだろうが、今は来ない。上では爆発に似た轟音が何度も鳴り、不安を掻き立てる。

手足の先が何なのかわからないほど血と肉でグチャグチャにされたハリーは虚ろな目で、ぼんやりと床を眺めているだけ。水責めの真っ最中にサクラが呼び出されたせいで、ハリーの額はただ濡れている。シドレはハリーに無機質な視線を向け、すぐにトラウマが甦って反らした。



「……!?」



ただ時を過ごしていると、唐突にワールが顔を上げた。その意味を数秒後にシドレは理解し、ハリーだけでなく、出入口のドアに重力をかけた。ワールは腰にさした剣ではなく、持っている刀の鞘に手を伸ばす。
侵入者だ。

基本、地下への入り口には何重にもトラップが仕掛けられており、部外者は徹底的に入ることができない。そもそも地下の存在そのものを知っているのは組織のなかでも極少数。重役のみで、ほとんどは知らない。結果、外部に知られることもなく、そして魔術、召喚術、封術などの異能による要塞化で侵入者などあり得ないのだ。魔術はリャクを中心に、召喚術はカノンを中心に、封術はナナリーを中心に行うほど。カノンは先日死んだが、彼ほど熟練した召喚師なら死してなお術は起動する。

――だから、今シドレとワールが殺気を感じているのはおかしなことだった。



「どういうことだ」



訳がわからないのはワールだけではない。シドレだって。しかし、確かな殺気と気配近付いてくる。



「収集家以外にも侵入者がいたということでしょうか」

「っち、よりにもよって、こんなときに、ここでかよ!」

「最悪の場合はいつでもやって来ます」



シドレは自分の腕を撫でた。肘から手首にかけて。思い出すように、誓うように、奮い立つように。
そして袖に隠していた折り畳み式の槍を取りだし、伸ばす。



「こうやって『私たちの』組織が危機に陥るのは二度目ですね」

「ああ。今回だって生き残ってやる俺たちの力で!」