SSS


 

リャク様がいる部屋に到着した。ノックをしてから中に入ると、その中は組織の重役が忙しなく動き回っていた。
リャク様は絶え間なく指示を出しており、ナナリーは封術を使っているせいで集中し、その場から動けずにいた。リカとサクラは情報収集に徹している。諜報部と研究部の幹部たちは指示を受けてドタバタと息を切らせていた。



「ソラ! 待っていたわ」



オレの存在にいち早く気が付いたのはナイトだった。ナイトはオレを手招いたので、ナイトのもとへ。ナイトは眉を寄せて悩ましげな表情をしながらオレに任務があると言った。



「まずは現状を説明するわ。収集家が襲撃してきた――ここまでは知ってるわね? 彼が使った異能で組織の人間はほぼ膠着状態。エテールがなんとか収集家の組織の攻撃を抑えてるわね。収集家だけならリャク様が相手をしてくだされば、もしくは私たちボス補佐が複数入れば追い出すことが可能よ。でも、襲撃したのは収集家だけではなかったのよ」

「え?」

「死神のティア。彼女は最上階にいることが確認されたわ。挟むように下降してきてる。彼女が敵だということですでに厄介なのに、ティアが敵にまわったことでツバサの生存と、ツバサが敵だということが分かったわ」

「ツバサが……生きてた……? ツバサは頭に弾丸をぶち込んで死んだんじゃないの? オレの目の前で消えた。幻なんかじゃない」

「ええ。分かってるわ。でもティアはツバサの味方にしかならないのよ。絶対。証拠は僅か。でも、リャク様やリカとサクラはツバサが生きてると確信している。それを前提に任務よ、ソラ。
サクラの二人と一緒に最上階を目指してほしいの。あなたは今回、暗殺や人殺しをする仕事じゃなくてレーダー役。あなたの能力は本来、戦闘よりサポート向きよね?」

「そうだけど……、まあ、確かにオレよりサクラの方が強いしね。護衛ってわけじゃないんでしょ。レーダーってどういうこと?」

「今からリカが最上級魔術を使って、この建物を文字通り真っ暗闇にするわ。非常時の防御機能よ。残念ながらツバサもこの手段を取ること予測されているでしょう。私たちの目的は組織の人員と最重要物をここからすべてが撤去すること。研究器具などの撤去はサレンを中心にすでに開始してる。あなたはサクラを連れて、諜報部のデータを回収するのよ。真っ暗闇になるとソラや探索系の異能しか動けなくなる」

「なるほど。だからレーダーなわけだ。了解」

「戦力が足りないの。ラカールとチトセがいればと思うのだけれど、仕方がないわね。迅速にお願いするわ」



オレは頷いた。
ラカールは時間を一時的に止める異能を、チトセは若いのに非常に優秀な召喚師だった。確かに惜しい。ラカールの異能があれば、何も焦ることはなかったのかもしれない。ナイトが悔やむのもわかるが、やはり仕方のないことだ。

オレはナイトにもう一度任務を確認したあと、リャク様に近づいた。彼にはエテールの伝言を伝えなければならない。非常に忙しいため、リャク様はオレが話しかけるまでオレがここに到着したことに気が付いていなかったようだった。リャク様に伝言を伝えると「やはりか」と言った。この状況をすでに予測していたのだろう。



「しかし、復元能力はカノンの後を追うのが上手いな」

「上手いって……、まさかエテールは初めから死ぬつもりで収集家に挑んでるんですか」

「尊敬する人物が死んで、生きる意味を見失ったのは復元能力だけではない。粉砕能力、影と光操作能力もそうだ。ちょうど組織の危機が訪れておちおちと死んでられなくなったんだろう。オレには理解できんが。まあ、貴様は辛うじて呪いがあるから簡単に死んでいられないがな。まあそんなことはどうでもいい。急がせることは了解した」



リャク様は話の最中、一度ナナリーや掛ける白衣を着た部下たちを見た。すぐに視線は外れたが。リャク様にもう下がってもいいと言われたので下がると、出入口付近にはサクラがオレを待っていた。ちらりと視界の端にリカが詠唱を歌う姿が見えた。