SSS



リャクは苛立ちを隠さなかった。



「なぜ監視カメラが動かない……!」



バチバチとリャクから魔力が漏れ、空気と溶け込めず静電気のようなものを発生させていた。近くではリカが焦った様子で諜報部に指示を飛ばしていた。さらに離れた所ではサクラが召喚陣を展開している。リャクの傍らではナナリーが慌ただしく口頭で現在獲得している最悪な情報を伝えていた。



「諜報部が保有している情報取得機器のすべてが機能停止して、組織のメンバー全員に情報がまわりません! 現在は八階にて探索系の異能者が収集家の動向と情報取得機器が機能しない原因を探っています。現在収集家は二階の女子寮まで進行。エテールが足止めをしていますが、完全に動きを止められていません。また、私が封術を掛けた六階以上の階層は被害がありませんが、それ以下は応答がありません。ルイト・フィリターが呼吸と心臓の鼓動を確認しているので死んでいないはずです」

「ちょっと待ってくれ、ナナリー。最悪だ。最上階にテア・ジュラーセが現れたらしい。死神だ」

「え!? まさか」

「ああ。彼女は収集家の味方だ」



ナナリーが長々と報告し終えた直後にリカが付け加える。片手に携帯電話を持っており、その先は八階に繋がっているのだろう。



「ティアが収集家の味方に進んでなるのは考えにくい。アイツも収集家に命を狙われていたんだ。そして、ティアは育ての親であるツバサの味方にしかならない」

「リカ、それって……!」



ナナリーは青ざめた。リャクが舌打ちをし、リカとナナリーの会話を聞いていた他の人間たちも不意に静まり返る。リカが言おうとする結論は分かっていた。それは行方不明だった彼と、最悪な状況で再会すること。



「ツバサが敵にまわったのか。芯まで腐ってるな、あのボス」



事実が分かったとしても、サクラは彼をボスと呼び、そしてリカの言いにくい台詞を言ってのけた。召喚したいくつもの色のない蟲を使役してサクラはそれらを散開させるとリカから携帯電話を奪った。



「おい、お前誰だ」



自分の部下にサクラが指示を飛ばすのは珍しい。それを担うのはいつもツバサかリカの役目だった。



「……アイベルトか。アイ、収集家の動向は他のやつに任せろ。探してほしい奴がいる。ツバサだ。恐らく情報機器を鈍らせたのはあいつ。ツバサを探してほしい。くまなく探せよ。……ああ、そうだ。任せた。ルイトを使ってもいい」



サクラは携帯電話を切る。
それを黙って見ていたリャクは腕を組んで眉間にシワを作った。リャクはナナリーを見上げ、暫く彼女を見つめたあと、同じ部屋にいるサレンを近くに呼んだ。



「この建物は破棄する。今から七階でサレンたち空属性を持つ魔術師は全員をここから脱出させろ。ここに残っていても全滅するぞ」