SSS



集合が掛かった。深夜のことだ。リャク様から戦闘可能の状態で六階の会議室に集まれ、とのことだ。事情はよくわからないが、速報の場合のみ使用される魔術による情報伝達から滲み出た禍々しい魔力はまさしくリャク様のものだった。これはただごとではない。オレはすぐに紺色のコートを着て、腰と太ももにガンホルターを装着。念のため、チトセが置いていった召喚術の具合を確認した。使えても、あと数回が限度といったところだ。無駄遣いしないように気をつけねば。刀を持っていくという手もあるのだが、これ以上あれもこれもと持っていけば、万が一戦闘になったときに邪魔になる。ここは諦めるしかない。



『あらあら、忙しそうね』



最近、よくラリスが話し掛けてくるようになった。最悪だ。これは呪いの進行が進むことによって生じる幻だ。――シングがそうだったように。幻を見る段階ではあまり他者にこの状況は伝わらない。いまのところ、オレはラリスしか見えていないのだ。左腕から左の爪の先まで、そして首辺りまで呪いの刻印は広がり、心臓の位置まで広がりをみせていた。

ちょうど昨晩、呪いが広がったのだ。真夜中、唐突に激痛が走り、ベッドの上をのたうち回った。隣室のルイトがその良聴能力で瞬時にオレの異常に気付いて駆け付けてくれたものの、誰にもこの呪いの進行を抑えることはできない。
落ち着いたときには呪いの激痛が発生してから数時間も経っており、ベッドが汗でびちょびちょに濡れていた。確認すれば、左腕までにおさまっていた刻印がここまで広がっていてルイトと二人で青ざめたものだ。



『無視をするなんて酷いわ。本当ならリャクのところなんかじゃなくてウノのところに集まるはずだったのに、彼は死んだのよね』



死者に対して、オレは、なんの感情も抱かない。幻といえど、ラリスもそれを知っているはずだ。だが、オレを挑発するために選んだ言葉がそれであるなら、彼女はオレを悲しみに沈めるために言ったのではないだろう。



「うるさい、黙れ。オレは深青事件のようなことはもう起こさない」



あんなことをしても、オレには、死者に対する感情など、芽生えは、しなかった。



『まだあなたは最愛の姉を殺してないわ。それに、ルイト・フィリター。今のあなたの大切な大切なお友だち。彼を殺してみてはどうかしら。ブルネー島には彼ほど絆の深い友人はいなかったでしょう?』

「……うる、さい」

『昨晩だって、あなたを心配して直ぐに駆け付けてくれたじゃない。お互いがお互いを深い関係だと認めあって、そして信じてるのね。とっても深い絆よ。素敵』

「オレはルイトを殺さない……」



ギリ、と歯を食い縛る。ラリスの甘い誘惑に乗せられてしまいそうなソラ・ヒーレントが……、ミソラ・レランスが腹立たしい。

と、直後にあまり使わない携帯電話が鳴った。画面を確認してみると、それはルイトから。なんとまあ……タイミングのよろしいことで……。



「……はい」

『あ、ソラか? やばいぞ、アイに確認をとったらあの人物、収集家だ』

「収集家……!? まさか、そんな」

『恐らく単独で襲撃してきたんだろう。目的は恐らくリャク様の天属性。もしくは死属性の呪いがかけられているソラだ。気を付けろ。今、一階でエテールが応戦している。エテールなら足止めになれる。だが、その他一階にいた奴等は全員、収集家の異能で動けない。一階は危ない。早くリャク様の指示に従って動いたほうがいい。冷静にな』

「ル、ルイトはどこにいるの?」

『俺は八階。俺のことは心配しなくていい。ソラ、急げよ』



ラリスはいつの間にか消えていた。オレはルイトに言われた通り、すぐ部屋から飛び出し、走ろうとして一旦とまる。目線の先は正面の部屋。あそこにはジンがいるはずだ。リャク様の指示どおり動いているのか心配でドアを蹴破った。
よかった。ジンはいないようだ。蹴破ってから気付いたが、今晩はジンが見回りの番だった気がする。無駄な心配をしてしまった。オレは六階を目指して駆け出した。