SSS



一番始めに違和感を感じたのはエテールだった。ロビーの番を受付嬢と交代し、深夜の午前0時過ぎをアナログ時計で確認したばかりの頃だった。誰かが、ロビーを通ったのだ。無断でロビーを通ることは基本的に許されない。しかもこんな深夜に限って。エテールは振り向いてすぐに制止の声をかけようとしたが、口からなにもでなかった。



(……なんだ、またか)



後から考えれば、この根拠の全くない「慣れ」は明らかにおかしい。それでも、その時は気づくはずがなかった。気づくわけはもなかった。絶体に。だから仕方のないことだと言っても、その被害に遭った人物なら誰もが「なら、仕方がない」とエテールを許すだろう。天災に対して人がなす術もないように。――そう、それは、まさしく天災。その存在こそが天災といってもいい。人類にはどうしようもできない神の領域だったのだ。

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次に何かがおかしいと感じたのはナナリー。次にリャクだった。ナナリーは建物全体に封術を張っているため、違和感には敏感だった。それでも彼らが侵入した時刻より大幅なズレが生じている。
リャクはナナリーのその敏感さを長年の付き合いで察した。



「どうした、ナナリー?」

「なにか……、違和感が……」

「違和感だと?」

「はい。なんでしょう……。侵入者……?」

「なに?」

「待ってください。正確に計測できません」

「今は仕事から手を離せ。オレが封術の補助を行う。ナナリーは違和感を探り当てろ」

「はい!」



リャクは自身の研究室で書類整理をしていたナナリーの手を止めさせると、魔術の詠唱を開始した。すでに時刻は午前0時半を過ぎようとしていた。

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ルイトは、たまたまヘッドフォンを床に落としてしまった。少しの残業と、任意で行っているソラの家事手伝いを果たしたあとのことだった。



「ルイトどうしたの?」



ルイトがヘッドフォンを落とすなんて珍しい。と、ソラの目は語る。ルイト自身も驚いており、落ちたヘッドフォンをただ見つめていた。目を丸くし、ぽかんとそれを見る。ソラがそれを変に思いながらヘッドフォンを拾い上げてルイトに差し出したが、ルイトは硬直したまま動かなかった。仕方なくヘッドフォンをルイトの頭に着けてやろうとソラが手を伸ばす。それを、ルイトが拒んだ。



「待て、ソラ」

「どうしたの? 調子でも悪い?」

「おかしい。ちょっと俺、アイのところ行ってくる」

「え? ちょっと待って、だからどうかした?」

「組織の建物の前に誰かいる。音だけじゃ怪しいからアイの千里眼でそれが誰なのか見てもらう。もしものことがあったら困る」

「ふうん。諜報部は用心深いね。でも、ま、ルイトが怪しいと思うならいった方がいいよ」