SSS



ツバサは腕時計を眺めていた。その様子をテアが黙って見つめ、さらにそれをレヴィが見守る。そんな変な構図を、公園で行っていた。都会でポツンと穴が開いたような、もしくは出っ張るような公園。自然が囲み、葉のない木々が僅かに身震いしている。季節は冬なのに、公園の遊具でたくさんの子供たちが遊んでいる。



「……そろそろ時間になる。レヴィはともかく、テアは本当にいいの?」

「なにが?」

「今からリカやサクラ、それに腐れ野郎を殺しに行くんだよ。仲良かったじゃん」

「ツバサも知ってるでしょ? 私は戦うのが好きなの。大丈夫よ。それに、ツバサはそろそろリャクって名前で呼んであげたら?」

「そんなことしたら舌が腐る」



相変わらず、といった様子だ。
この公園から組織の建物まで数分。あはは、とテアが苦笑いをする。レヴィは仲間外れにされたことを少しふて腐れながらツバサに「作戦はあるのか?」と聞く。



「作戦ってほどでもないけど、まあ考えはあるよ。俺とテアが最上階に登って合図を送るから、そしたらレヴィは玄関から影のアレ、やって。そしたら大方の戦力は削れる」

「ああ、アレな」

「でも全員を束縛するのは不可能。そりゃ、ある程度の力を有する奴等は自力で束縛を解除する。あと、同じように影系統の能力者がいる。それに影と相性が最悪な光系統の能力が各々一人」

「暗殺部のシャトナとレオね」

「そう。だからレヴィはアレに、さらにロックをかけてほしい」

「ロックか。まあ別に構わないが、あれは視界に映らないと出来ないぞ」

「ってことで、レヴィは正面突破よろしく」

「はあ!? 俺が正面突破!? 奇襲じゃないのか!?」

「奇襲はテア。俺は各フロアのシステムを落とす。あそこは上層の情報は回るのが遅い。一階や二階とかの下層のほうが情報が回りやすい。だから収集家が襲撃してきたってなれば混乱するよ。今の組織は機能しにくいはずだ」

「? どうして?」

「ウノとカノンは死に、組織の主戦力を担っている傭兵部は崩れかけているからね」

「ツバサ、お前その情報どこから入手するんだよ……。あそこの組織は情報が鉄壁だって、裏じゃ有名だぞ」

「元諜報組織のボス舐めるなってことだよ、レヴィ」



ツバサを軽く流し、レヴィは手をヒラヒラと振った。ふと、斜め下にあるテアがうつ向いているのが見えて「どうした?」と肩に手を乗せた。するとテアはレヴィを見て、酷く悲しんだ顔をした。そしてすぐに、ぎゅっと塞ぎ混んでいた口をツバサに向ける。



「……ウノ、死んだの?」



ツバサは娘や妹のあたまを撫でるような手つきでテアの髪に触れた。それがどんな答えを含んでいるのか、テアには分かる。そう、と小さく呟いた。涙を流すことはなかったが、悲しんでいることはツバサとレヴィに十分伝わる。



「しっかりしろよ」



レヴィがテアの背を叩いた。テアは手で顔を多い、息を吐いて気分を切り替える。今から、その組織を潰しにいくのだ。ウノとカノンが死んだのなら絶好のチャンス。覆っていた手で頬を叩く。テアの表情は凛としていた。



「大丈夫。足は引っ張らない。見てなさい、レヴィ。あなたが私の能力を奪うなんて発想が無くなるくらい圧倒的な力を見せ付けてやる」