決着




「貴様、最期の最期まで抗うか。我に」



鼓膜が破れる高音の中、カノンは冷静に腕を動かした。なにか召喚するつもりだ。しかし、何に対して? カノンの前には何もないではないか。あるとすれば、ウノ様が肉体の代わりにしていた人形くらい。しかしその人形は今やただ地面に落ちているだけでウノ様の魂が入っているとは到底思えない。



「抗うよ」



向こうで何を話しているのか、高音が邪魔してなにも聞こえない。オレが出来るのは見ることだけだ。カノンが口を動かして何か話をしているがあいにくオレは読唇術を心得ていない。何を、誰と話しているのだ。カノンは。ウノ様は、どうなった……?



「しぶとい。ヘルに喰われてもなお運命を受け入れぬか」

「ああ。そうだ。死んでも死にきれない。墓に入れる肉体がなければな!」

「今度は魂そのものを引きちぎるしかないな。八つの魂を持つ大蛇によって――」

「運命を受け入れるのは貴様だ、カノン! 召喚するよりも貴様の魂を我が能力でその肉体から追い出してやろう!!」

「浮遊能力にそんなことが……!?」



カノンは湖に手のひらをかざした。すると湖から黒いカードが何枚も現れ、地面から腐った体を持つ死者が這い出てくる。しかし敵は見えない。何に対して攻撃を仕掛けようとしているのか、オレには……。



「う……。さっきからなに、この高音……」

「ソラ! ウノ様は!?」



背後からエテールとナイトの二人が現れた。戦闘を中断して湖まで出てきたのだろう。オレが首を振ると、二人は口を止まらせて湖の先を見る。ずいぶんと、カノンが遠く見えた。



「年貢の納め時だ!」



カノンの体が膝をついた。吐き気がするのか、口を押さえている。カードがボチャンと湖に沈み、死者たちは地面に引き戻されていった。

高音がさらに大きく鳴り響いた。

カノンは地面に手をつく。
足元に大きな召喚陣が描かれていくのがみえた。しかしそれよりも早くカノンは力尽きたのか倒れてしまう。カノンが倒れてもなお、陣は描かれていた。気味が悪い。カノンがどうなったのかわからない。ウノ様がどうなったのか分からない。そんな困惑の中、世界の色が崩壊しはじめた。リャク様の魔術が解けている。決着がついたというのだろうか。

まだ世界が戻ったわけではないのにオレは真っ先に走り出した。ナイトが危険だからまだ出るなと怒鳴ったが、この際高音のせいにして聞こえないふりをした。

景色が、見慣れた建物の中に戻って行く。

息を荒くしているナナリーと、その近くにはいつも通り腕を組んでいるリャク様がいて、その周辺には白衣を着た研究部の人たちがいた。空間の奥には縛っていた髪がほどけたカノンが倒れている。一目散にオレはその体に駆け寄った。目を覚ませば、きっと柔らかい表情をするウノ様がいると信じて――。