魂の受ける傷



巨大な女は腐らせた腕と美しく白い腕を伸ばしてウノを掴もうとする。ウノはその手をするりするりと抜けていってしまうが、女は吠えながらそれを止めようとしない。

ふと、ウノと巨大な女の目が合った。

ウノに目という部位は存在しないため「目が合った」というのはおかしな話だ。しかしそれは、確かに目が合っていた。紛れもなく、間違いなどなく。ウノは魂が震えるのが分かった。人形と引き裂かれる感覚を覚えた。痛みはないが、それは言葉にし難いほど気持ち悪い。



「我の召喚師としての属性は知っていよう?」

「……っ」

「死。……死人の魂に対する効果的な契約はとうの昔に完了している。そやつは死人を支配する国の女王だ。貴様は我に勝てても、そやつに勝つことはない」

「ッカノン……、カノン!! 私の体を返せ、畜生めッ!!」

「喧しいわ。さっさと死ね」



冷めきったカノンの言葉が人形を肉体の代わりにしているウノの聞いた最後の言葉になった。

ウノの魂は無理矢理人形と引き剥がされた。魂への直接的な痛みがウノを襲う。気絶もしそうなほどに激痛。ウノに肉体はない。気絶をして現実から逃れるための最終防壁でさえ無かった。魂だけの存在であるがために朽ちる肉体が無く、異能者にしては長生きができたが、それが仇となった。肉体がないからこそ魂の苦痛は絶大。
ウノから発せられる言葉はもうない。いままで無い声の代わりに空気を震動させて発していた偽物の声もただの擬音になる。耳が痛くなるほどの高音が辺りに響き渡った。その高音は、ソラにも、ナイトにもエテールにも聞こえており、その高音のせいで酷い頭痛を起こしてしまう。もしかしたら、ウノの高音は異次元のリャクたちにも届いていたかもしれない。

ウノの魂を奇怪な力で引き摺り出す巨大な女は宙を掴むしぐさをした。拳の手には次々に切り傷が生まれ、真っ赤な血が滴る。自身の手など構うことなく女は上を向いて口を開け、その直線上に手を配置する。その手が、開いた。数秒、女はその体勢のままだったが、酷い高音が嘘のように鎮まったあと、女の口は閉じた。

――。
……――。
……――静寂。

全てを忘れるほどの鎮魂が時の流れを止めている様だった。