土の魔術師



チトセが置いていった召喚陣から刀を取りだし、それを使って暴れる木々を切り裂いていく。先ほど撃ち抜いたシャラの右手は真っ赤に染まり、その手にはいくつか風穴が空いている。口の悪いパペットは唐突のことで驚き、シャラは痛い痛いと憎悪のこもった目を血眼にしてオレを探し始めた。



『シャラ! 四時の方向だ!』

「『アブトス』!」



シャラの声と共に地面が爆発した。規模は小さいものの、まともに当たってしまえば手足が吹き飛ぶ。ギリギリで回避したから良かった。
しかし、ホッとしたのもつかの間。シャラは呪文を連続で行い、下級魔術で集中攻撃を行った。



「『アブトス』『アブトス』『アブトス』『アブトス』『アブトス』『アブトス』」



暴れていた木々はシャラの呪文で木っ端微塵になっていく。ただの木屑になっていく木々から離れ、俺は拳銃をしまって、刀一本を握った。あんな弾幕を行う魔術師に遠距離で挑んではいけない。これは接近戦でさっさと殺してしまおう。
オレは回り込むようにしてシャラに近づいた。途中で何度かパペットに見つかるものの、すぐに姿をくらます。そうしてシャラに近づき、一閃。しかしパペットが土から即席の盾を作り上げてしまった。その盾はすぐに崩れ去る。



『おいおい、アイツの武器はどうなってんだ!?』

「知らないよ! 『リヤー』!」



足元から細い土の槍が覗き、突き上げる。コートが少し破けたが回避をすることはできた。シャラに続いてパペットもオレに攻撃を仕掛けるが、いくら攻撃しようと、オレの眼にはその攻撃をどうやって避けたらいいのかよく見える。
武器らしい武器を持っていないシャラは青ざめていった。

刀が薙ぐ。これは避けられない距離だ。シャラは咄嗟に風穴の開いた右手を身代わりにした。深く刃が肉に入り、筋肉を切断し、骨を削った。シャラの悲痛の叫びが響く。魔術を使用するどころではなくなったシャラのかわりにパペットが魔術を駆使してオレに反撃をする。が、このパペットはシャラのように高速で下級魔術を発動させることができないようで、隙だらけだった。邪魔だ。そう思って、シャラの左肩に刀を突き刺した。すぐにシャラの左腕は動けなくなる。



「っ『リヤー』『アブトス』……!」



頭上に槍。そして槍が爆発。
オレはすぐに伏せてフードを被り、地面を転がって回避。そして転がった先で止まるとシャラの足を引っ掻けた。シャラはバランスを崩して倒れる。そのシャラに跨がり、左腕を切り落とした。シャラは悲鳴をあげたりしないで、呪文を唱える。なんという強靭な精神だ。槍がオレを串刺しにする前にシャラの左腕についていたパペットをひと突きにし、それを軸にして飛んだ。飛んだ先でしまっていた拳銃を引き抜き、シャラに撃つ。撃つ。

シャラの帽子に穴が開いた。
シャラの足に穴が開いた。
シャラの耳が吹き飛んだ。
シャラの腹部が血塗れになった。
シャラの身体は真っ赤になった。

そしてシャラは動かなくなった。

拳銃の弾丸がなくなってからオレは彼女が死んだことを確認するために動こうとしたが、その場で崩れてしまった。左足に力が入らない。何事かと足をみれば、そこには血があった。さきほど、避けきれなくて足に槍が刺さったのだろう。
意識するとだんだんと痛みが増した。

死んだシャラの体から大量の血が溢れる様子を見ながらオレは静かに目を閉じた。遠くで聞こえる、戦う音に耳を傾ける。ウノ様たちの戦闘はまだ決着が見えないようだ。