足留め



ナイトの居場所をエテールは発見できなかった。エテールの持つ魔術書に探索系の魔術はない。あったとしてもレベルの低い魔術しかない魔術書にナイトを発見できるようなものがあるとは思えない。
エテールは手詰まりしていた。

一方でナイトはもちろんエテールの位置を把握している。ナイトにはエテールとの戦闘を意図的に延長させる必要があった。ウノとカノンの邪魔をしてはいけないという理由だ。これは彼ら当事者自身が解決すべきだと思っている。ナイトの能力は直接人体に打ち出せないという欠点があるもののそれを利用した殺し方などいくらでもあった。それをしないのは、やはりエテールとの戦闘を延長させてウノとカノンの邪魔をさせないことだ。



「これだから暗殺者は嫌になる!」



エテールのそんな愚痴を、ナイトは、地中で聞いていた。

ナイトは地中に隠れていたのだ。先入観のせいか地上ばかりをみているエテールに見付けられるはずもない。ナイトの思い通りに事が運んでいた。
気掛かりなのはウノだ。肉体があった頃はカノンに負けて全てを奪われたのだ。今度こそ魂すら奪われてしまうかもしれない。今度こそ死んでしまうかもしれない。しかし肉体がないからこそ勝算はある。ナイトは地中に伝わる音に耳を傾けて静かに祈った。



「やたらめったらに魔術を使っても駄目だよね。困ったな……。どうにかしてナイトを見付けないと」



ナイトの居場所がわからないエテールは魔術書をパラパラと捲っていた。
エテールもまた、ウノとカノンの戦いにナイトを連れて行かせないための足留めとしてここにいた。エテールがナイトを見付けられなくてもそこにいることで足留めとなるなら、ダラダラと戦闘をしていてもいい。

ナイトとエテールが互いに焦るわけでもなく互いを足留めしているため、戦闘に劇的な変化が訪れるわけでもなかった。そんななか、湖のあるほうで大きな音が鳴った。ウノとカノンがいる方だ。それが油断となった。エテールが湖の方を放心した様子で見たのだ。その瞬間、ナイトの能力で魔術書を粉砕してしまったのだ。エテールが驚いたときにはすでに遅い。手もとは空になった。何もなくなってしまった。
ひゅう、とそよ風がエテールの長い髪を凪いだ。



「まったく。ナイトはどこにいるんだか」



エテールは触れるように手を風にかざした。すると風は強くなる。先程の突風が再現されたようだった。地中にいるナイトに被害はないものの、地上に出ることはできなくなった。
エテールの復元能力が突風を復元したのだ。時間をかければ魔術書も復元できるだろう。ナイトはいずれ地中にいることがバレてしまうのも時間の問題だろうと、親指の爪を噛んだ。