エピローグ


   

それから月日が流れた。ソラが自殺をしてからもう十年は経つ。
俺、ルイトは教師になった。ツバサが経営する学校で忙しなく働いている。レイカは相変わらずリャク様のもとで研究員をしている。ジンは最近、やっとレイカの働く研究施設に
警備員として就職することになった。ジンとレイカは付き合っていて、ジンの貯金が貯まったら結婚するそうだ。あの不器用なでレイカをいじめてばかりだったジンが、だ。俺の結婚はまだまだだな。付き合うことは何度かあったが、どうにも上手くいかない。
ああ、そういえば、この前シングとミルミの墓参りにも言った。けっこう綺麗な墓なんだ。ソラのは簡素で申し訳ない。


ブルネー島の塩っぽい風が吹く。ソラの墓参りに来ていた俺は近状報告を済ませると重たい腰をあげて立ち上がった。どうにも手を合わせる、なんていう習慣がないからぎこちない。
ソラが死んでからの十年は長かった。
ソラが死んだ当初はジンもレイカも、ラカールとチトセもナイトもみんな泣いていた。葬儀はひっそりと行われた。ソラが死んで悲しむ人もいれば、ほっと胸をなでおろす人も、喜ぶひともいた。どうやらソラって暗殺業界ではなかなか知名度があったらしい。

ミソラ・レランスは大罪人であり、悪人であった。ソラが自殺したからといって、その事実が覆るわけでもないし、死んだ人たちが報われるわけではない。死ぬだけでは足りない罪だったが、ソラには死ぬしか贖罪の方法がなかった。
正直、ソラが死んで悲しいというのは少数派だ。
俺は命の重さを教えたくて教師になった。ソラみたいに苦しむ人間を生み出したくない。ソラに命の重さを教えられなかった俺の後悔もあってのことだ。

ソラが自殺したのは贖罪のためだけにしたくない。ソラが大罪人であることに間違いはないが、俺にとって、ソラは親友だった。ソラの死は贖罪ではなく、今の俺にいかされている。

こんな綺麗事、きっとソラは「きもちわるい」と一蹴するだろうな。
ソラが死んで俺は落ち込んでしばらく塞ぎ切っていた。でも、ソラは死の間際、断頭の寸前、泣いていた。笑っていた。あの分じゃ本人は気が付いていないだろう。涙を静かに流して満足げに微笑んでいたのだ。
死を理解できなかったミソラだが、きっと、自分が死ぬときになってその重さと切なさで理解できたのだと信じたい。
ソラが泣いていたのはきっと、死ぬことが切ないものだと知ってのことだと。
ソラが微笑んでいたのはきっと、最期に満足していたからだと。

もしかしたら俺の自己満足の解釈なのかもしれないか、それでも俺をこの十年も生かしてくれたのだ。ソラの死は贖罪のためなんかじゃない。

十年でブルネー島は小さな山一つ分程度の大きさになってしまった。きっと俺が死ぬ前にこの島は沈むだろう。ソラが眠るこの島は近い未来海に沈む。ソラは海が好きだったからこれもいいだろう。
今日も心地よい波の音が島を包む。冬でも日光は厚い。
美しく青い海を眺めて、砂浜に寝転がり、昼寝でもしよう。夢でソラに合えたら改めて近状報告でもしようか。話したいことはたくさんあるのだから。