青年の視界には長い艶やかな黒髪の少女――初がいた。第一印象は人形のような可愛らしい少女。眉を下げて心配げな表情をしている。
つい先ほど目を覚ました青年は自分の置かれた現在の状況がよく理解できないようだが、初は青年がどうして怪我をしているのかわからなかった。

青年は自分が和室の中心で、布団の中に寝ている程度の状況しか和からない。自分は気を失っていたのだろうか。そうだとしたらなぜこの少女は助けてくれたのだろうか。いや、助けてもらった確証はない。もしかしたら自分を殺そうとした退魔師の仲間かもしれない。
上半身を起こそうとした青年を初が必死で止めた。声はなく、小さな腕で青年を寝かせようと必死だった。



「あなたは大怪我をしているんです! 手当ては済ませました。安静にしていないと傷口が開きますよ?
……手当て? どういうこと?」

「!」



初の思ったことをズバリ言い当てる青年に初は驚いた。声を失ってから自分の感情や考えていることを伝えられない初にとって、初は自分の考えていることが伝わることに驚いていた。



「ど、どうして私の考えていることがわかるのですか? あ、また! 全部わかるのですか?! 凄いです!
その前に君は誰……? 俺を助けたの?」



初はにっこりと微笑んで頷いた。品のある微笑で、教育が行き届いていることもこの家が「良い家柄」であることも青年に伝わった。
青年はまるで一人で二役をしているように別々の口調で話をし続けた。



「そうですね。私が無理をいってあなたを手当てするために連れて帰ろうと訴えたのです。大怪我をしている人を雪の中に放置することができるほど私は非常ではありません。
俺を殺そうだとか売り払おうだとか考えてるの?
え? 殺す……? 売る……?
もしかして何も知らないの? 一体なんのために助けようと……。
困っている人がいたら助けるのは当たり前だと侍女に教わっております。あなたは困っていました。だから助けたのです。
本当にそれだけ? 俺には心が読める。探られて過去を掘り出される前に本当の事を言ったら?
……、下心があることは隠しません。私、あなたとお友達になりたいのです」



青年は目を丸くした。金色の瞳が小さくなるようで初はくすりと笑った。青年は初が嘘をついていない事がわかる。だからこそ脱力した。重苦しくため息をついてみせた。
見知らぬ男を友人として招こうなどとは無防備にも程がある。



「私は桜庭初と申します。予知能力を代々受け継ぐ家柄に生まれております。私はあなたとお友達になりたいのです。どうか、私の友達になってください。
……。
あなたの怪我が治るまでいくらでも私を試してもらっても構いません。あなたの友達にふさわしい人間なのかどうか……」