テレビ番組に「超能力者」が登場することはもう珍しくない時代だ。彼らが本物であれ詐欺師であれ、「超能力者」というブランド価値は幾年か前よりも下がったように考えさせられる。まだ幼い子供のがとあるテレビ番組に超能力者をみて、興奮しただろう。まるでアニメのヒーローのような存在だ。憧れを抱き、夢を描いたことだろう。しかし数十年も月日を過ごした後にみる「超能力者」に興奮はしない。せいぜい、凄いなあ、と感心するくらいだろう。
程遠い存在。
超能力者を不思議で怪しいこと――つまり怪異に類似する力の持ち主であるとするならば、それは非現実的だ。しかし怪異とは本当に非現実的な存在で、まみえぬものなのだろうか。


少女は生まれながら予知能力を有していた。彼女の家系――桜庭家はもともと予知能力をもつ珍しい先天的な家系だった。その家系に長女として生まれたのは歴代の予知能力者も舌を巻くほど強力な力を持っていた。歴代で最も強力だと云われる初代当主に匹敵するほどだ。まだ幼い彼女は、家の者たちにその力を恐れられた。
未来がみえるというのは恐るべき力だ。詳しく、はっきり、特定を割りだし、幸も不幸も総てを見透かす力は物理的な力とは別の意味で危険だ。他言無用。それ故に予知を伝える術である「声」少女は無くすことになった。

彼女の名前は桜庭初。



「あら、外に行きたいの?」



初は午後、現桜庭家の当主である母の服をつまんで頷いた。服をつまんだとき、彼女の視線が窓の外へ向いていたため、母も察したのだろう。もしくは外に出ている近い未来がみえたか。
しかし母は困った表情をした。何せ窓のむこうは晴天ではないのだ。どんよりと暗い雲が冷たい晩冬の風を運んでくる。毎朝行う天気の予知ではこのあと雪が降るはずだ。それは初も承知していることだろう。

初の母はしぶった。初の両親は厳格で、初はこれはダメかもしれませんね……、と胸のなかで呟いた。声が無いせいで近所に近い年齢の子供はいても友達と呼べる者はいなかった。大人しく家の奥で一人遊びしかしない初がついていないときに自分から外に行きたいと意思表示をするのは珍しかった。たまには初を外に出してやろう、と初の母は許可した。初は喜んだ。ぱぁっと笑顔になると母の手を引いて玄関まで急ぐ。
靴を履いて外に出ると、もうパラパラと雪が降っていた。



「何処へ行くの?」

「……」



初は母の手を開いて手のひらに指で文字を書いた。『さんぽ』と。

この散歩がひとりぼっちの怪異との出逢いだとは知らずに。