来客にお茶を出しに来た初はたまたま耳に入った会話に動揺した。

その客が来たのは午後。初が勉強に一段落つけた時だ。母に手伝いを頼まれた初は素直にそれに応じた。台所に入るとき、一瞬みた来客の姿はいままで家のなかだけが世界だった初には少し衝撃的だった。黄土色に染めた髪を持っていたのだ。金よりは茶色が混じった髪。初めてみる人に初は好奇心が沸いていた。
しかし。



「こちらに私が捜している妖怪がいると聞いたのですが、本当ですか?」

「ええ」



母がもともと予知で来客が来ることを察知していたため、お茶の準備は手早く済んだ。礼儀を幼いころから叩き込まれている初は来客を前にしても恥を見せることがなかった。来客は感心していたが、初はそのとき、彼が話にあげた妖怪がサトリの青年のことではないかと聞き耳をたてた。



「良かった。彼の居場所を教えて貰えませんでしょうか? すぐに片付けます」

「かまいませんよ」



初はつい、母の袖を引っ張った。
片付けるとはどういう意味だろうか。なぜそんなことを言うのだろうか。根拠の無い不安が積もった。



「……」

「初、すこしの間、部屋に戻ってなさい」



初は来客のほうを見た。彼の荷物は何だ。そういえば長い袋を持っていたような気がする。嫌な予感がする……。
初は着物のまま走り出した。青年の部屋へ。そして走りながらすぐにある未来を予知して情報を得る。

頭の中を過ったのは来客が血だらけの刀を持って青年を殺してしまうシーン。ゾクリと背筋が凍って、冷や汗が流れた。
青年の部屋に飛び込んだ初は勢いがついたまま青年の胸に飛び込んだ。青年から苦しそうな声が漏れたが、そんなことよりも青年が死んでしまうことがなにより初の恐怖だった。



「う、初?」



青年の心配した声がさらに初を急かす。初を救いたいのに救うにはどうすればいいのか分からない。
初はひっしで青年にしがみついた。青年を離してはいけない。初には青年が来客に殺されてしまう未来ばかりがみえる。青年を生存させるにはどうしたらいいのか必死で考えた。たくさんのことを考えた。

縁側のほうから三人の足音がする。初は一生懸命に青年にしがみつく。襖が開くと来客がそこにいた。遅れて両親の姿がみえる。
なんの策も浮かばないままで、初は焦った。



「お嬢ちゃん、私は退魔師っていうフリーの妖怪を専門に扱う職業なんだ。人を喰う妖怪を排除してほしいっていう依頼があってね、ずっとこのサトリを追っていたんだ」

「……」

「君が大怪我したサトリを助けたっていうのは両親から聞いたよ。その怪我は私がこのサトリを排除するためにやったんだ。このサトリを排除しないと困る人はたくさんいる。私も、両親も、被害に遭った無念をはらせない人々も」

「……」

「わかるかい? 人を喰ってしまう妖怪なんだよ。君はいつかこいつに殺されてしまうかもしれないんだよ」



初は首を必死で振った。青年はそんなことしないと、私は死なないと。離さないと。