午前0時過ぎ
 
 

時刻は深夜となった。
夜になってから高蔵寺のところまで行くことに賛成したものは多かったが、夜でこその問題もあった。ロルフだ。狼になることを避けたがるこの人狼をどうにかして連れ出すのに多少の時間をさいた。また、戦うつもりはないものの相手は退魔師。万全に備えて赤神と九条は食事をしていたため、学校に行くのは深夜となってしまったのだ。
意外なところでは、引きこもりがちでなにもしていなかった金神も外に出たことだ。誰に不幸を落とすつもりなのか、くちもとは歪んでいる。



「うわ、大所帯。あたし留守番してよっか?」

「赤神ちゃん、私をこの男たちの中に置いていくつもり!?」

「え……、ごめん」



今でもロルフ月光の当たらない位置を歩く。九条たちのなかでは金神に次いで背の高いロルフは身を隠せるものが少なく、雪女の番傘を借りていた。
学校に着き、ダンと別れた三階に到着した。この学校は三階までしか校舎はないので、この上は屋上となる。シェルターの前にはダンがいまだにいた。生徒が帰るまでどこでどうしていたのか誰も知らないが、ダンは大量の紙を散らかした状態で座っていた。九条たちに気が付くと真っ先に「全員来たのか。大所帯だな」と赤神と似たようなことを言った。



「高蔵寺はどうだ?」

「俺の友達……は……?」



九条とロルフの第一声はそれだった。ダンは散らかした紙を片付けながらそれらに答える。



「高蔵寺はまだ屋上だ。屋上の手すりの支配権は俺にあるから間違いない。で、犬の友達は高蔵寺と仲良く屋上だ」

「っ犬じゃ、ない」



一言、喋るのも苦痛であるのだろう。ロルフはそれ以上口を開かなかった。ダンは紙を集めると全て破いてライターで燃やした。その様を見届けた九条たちは、次にシェルターに問題が移った。どうにかしてこのシェルターを開けなければならないが、その手段を持ち合わせる人は少ない。最も馬鹿力をほこるロルフは縮こまってしまっており、また、九条、ダン、雪女では言霊の影響で開けられない。



「よーし、名誉挽回! あたしがこんなの壊すよ」

「では僕がシェルターを壊しましょう」



同時に赤神と高橋がシェルターの前に立った。そして互いに顔を合わせる。



「僕が開けます」

「あんた、レデイフアーストって知らないの?」

「レディーファーストはここでは適応されませんよ。女性は下がっていてください」

「女だからってバカにしてんの? ここは年寄りを優先して……!!」

「さっきから何故守るべき存在を主張するんですか! 僕だってこれくらい破壊できますよ!」

「守るべき存在ぃっ!? ちょっと、訂正を要求する! どけっての!」

「いいえ退きません。僕が壊します!」

「……めんどくさいな、二人とも」



止みそうにない高橋と赤神の口論に九条が呆れた。代わりに九条がシェルターを破壊できればいいのだが、高橋、赤神、ロルフ、金神しかこのシェルターを壊せない。ロルフは月光に怯え、金神は文字通りなにもしない。ここには高橋と赤神しか壊せる者はいないのだ。



「おい、高蔵寺が異変に気づいたぞ」

「二人で同時に壊せたばいいんじゃないかしら?」



ダンと雪女が言ったのち、高橋と赤神は我先にとシェルターを破壊した。結果、同時に壊したのだが互いは自分が壊したと思い込んでいる。
九条はシェルターが壊れた刹那、床にヒビを入れるほど強く蹴り、駆け出した。ここにいる誰よりも最初に高蔵寺のもとへ急いだのだ。



「ところで貴方は本当になにをしに来たの?」

「事の顛末を見に来たに過ぎない」



まったくなにもしない金神に雪女はため息をもらした。しかしこのとき、金神は意味ありげな笑顔を浮かべていたのをダンは見逃さなかった。
雪女と一匹のがロルフを労りながら屋上に上がる。
雪がしんしんと降り積もる屋上では先に上がっていた九条と高蔵寺が対峙していた。