午前0時過ぎ
九条は迷いなく自分の携帯電話を手に取った。そして自宅に掛ける。電話に出たのは高橋だったため、すぐにロルフにかわってもらった。
『……申す申す』
「もしもし、だ。それよりも高蔵寺の臭い、分かるか?」
『ああ……逃げられた?』
「うるさい」
『高蔵寺、臭い……、絶ってる』
「まさか臭わないのか」
『臭わなくて、ぎ、ぎゃ……反対に、目立ってる』
「高蔵寺はどこにいる?」
『俺の友達に、追わせるのは……、いいと思う。ナイス。Gut』
「ドイツ語使うな」
『べ、べん……、べんき……。……学習すれば、バカ』
「日本語もっと学んでから言え馬鹿。高蔵寺は?」
『上』
「屋上だな。俺が高蔵寺を連れて帰るまで高橋に日本語を教えてもらえ」
『あいつ、フランス人』
九条は携帯電話を切った。ダンと雪女に高蔵寺の居場所を伝える。ハンカチを傷口に巻きながらダンは了解し、膝をついていた格好から立ち上がった。走らず、歩いて屋上に向かう。 しかし途中、階段のシェルターが閉まっていた。ダンが道を開けようとしたものの、唐突に刺された手に激痛が走って未遂に終わった。雪女が氷柱で突き破ろうとすれば、厚い灰色の雲の合間からタイミングよく日射しがさして、これも未遂となった。日射しがさすことで吸血鬼である九条と雪女の二人が弱体化。
「っなんでタイミングよく日射しが出るんだ……!」
「これが現象を起こす言霊使いよ。くっ」
着物の袖で己を日射しから隠そうと奮闘する雪女。しかし熱に弱い雪女は溶けているようで、足下には水溜まりができていた。
「……出直すしかない」
ダンが雪女を日射しから守ろうと影を作る位置に立った。雪女が驚いた表情を浮かべる。ダンが人のために何か行動を起こすようには見えなかったからだった。ダンは隻眼で雪女のポカンと惚けた顔を睨み付けた。
「俺はここに残って高蔵寺が出られないように見張っておく。夜になったら再び来い。昼ではこちらに不利が多い」
「ああ、分かった」
ダンは上着を脱いで雪女に被せると「しっし」と手を払った。雪女を横抱きにして九条はダンに従う。 九条が校舎から出たときには、校舎の中を覆っていた氷が溶け始めていた。
日射しは出たままだ。 町中、茶髪の少女や通勤中のサラリーマンに肩をぶつけた。日射しは九条も弱点だ。体のいたるところが熱く、痛い。家まで駆けた。玄関にはロルフと狼が落ち着かない様子で待っていた。
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